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第五十三話 長旅は退屈なのです。
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幸せになろうという二人にとって、そういう気遣いは無用なのだとヤンは自分に言い聞かせていた。
「ジェシカはいい嫁さんになるよ。ラップ、幸せにな。」
ヤンは朗らかに言い、また、親友の肩を叩いた。
「・・・・ありがとう。」
「ほら、ジェシカが迎えに来ている。」
ヤンが視線を統合作戦本部ゲート前に向けていた。そこにはかねてから食事を一緒に取ろうという約束をしていたジェシカが立ってこちらに手を振っていた。楚々とした深みのある青いワンピースと白い真珠のネックレスが彼女の美しさをより引き立てていた。
「行って来いよ。」
ヤンが優しく促した。
「言って気持ちを伝えるんだ。ここで待っているから。」
「・・・・いいのか?」
「行けよ。」
ヤンはラップの背中を押し出してやった。それは同時に自分の気持ちにけじめをつけた瞬間でもあった。シャロンはそんな二人から少し離れたところに立って邪魔にならないようにしていた。
ラップがよろめいて歩き出した。次第に彼の足取りはしっかりしたものになり、背中は決意の色で染まっていく。ヤンの眼に、ゲートを抜けたラップがジェシカの前に立つのが見えた。ラップが何を話しているのかはわからない。だがジェシカの顔が驚きで染まり、ついで俯くのが見えた。ヤンはじっとその光景を見つめている。理由は分らないが、ヤン自身も胸の鼓動が高まってくるのを感じていた。ジェシカはイエスというだろうか、それとも――。

 不意にジェシカがこちらを見た。もし――ヤンがここで首を横に振れば――ジェシカは思いとどまるだろうか、そんな思いがちらっとかすめた。だが、ヤンの頭は自分の思案とは裏腹に、すぐに優しく上下してうなずいて見せたのである。
 ジェシカは顔を上げ、そしてラップにとっては一生忘れられないであろう一言をその綺麗な口元から紡ぎだした。ラップの体が硬直する。と、彼は次の瞬間ジェシカを情熱的に抱きしめていた。
「成功したようですわね。」
いつの間にかシャロンが脇に立っていた。ヤンは近頃特に彼女に対して得体のしれないものを感じていたがどうしたわけか今日は違った。ヤン自身が感情をうまく制御できないのか、あるいはシャロンの邪気が消えていたのか、いずれにしてもヤンは彼女がそばに立っているのを今日は不快に思わなかったのである。
「成功してよかった。アイツが皆の面前で失敗するところなど、私は見たくないのですからね。」
「もしもジェシカさんが双子だったら。」
シャロンが突然歌うように言ったので、ヤンは狐につままれたような顔をした。
「ごめんなさい。でも、もしもそうであれば、誰しもが自分の気持ちを偽らずに済むでしょうと思ったのですわ。」
「私は別にそんなことは――。」
「いえ、違いますわね。仮にジェシカさんが双子であったとしても、それぞれは全く別の人なのです
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