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百人一首
74部分:第七十四首

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第七十四首

               第七十四首  源俊頼朝臣
 祈った。祈りに祈った。
 とかく全てをかけて、全てを捧げて祈った。
 観音様に祈りを捧げてそうして何でもした。してきたつもりだった。
 そうして祈ったことであったのに。ただ一心に祈ってきたことだったのに。
 それでもあの人の心は変わらなかった。
 心は変わらず動かず。そうして今もそのまま。
 あの人の心は変わらず動かなかった。むしろ。
 その心は冷たいものになってしまった。どうにもならないまでに。
 初瀬の激しい風の如く。冷たくなってしまった。
 観音様は間違ってしまったのだろうか。それとも何か考えがあるのだろうか。
 だからあの人の心は変わらずさらにつめたくどうにもならないものになってしまった。自分の心こそその中で激しく揺れ動いて吹き荒れている。
 その心を今歌にした。あの人のさらに冷たくなってしまった心について思いながら。そうしてその中でこの歌を詠った。

うかりける 人をはつせの 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを

 歌にしたところでどうにもなるものでもなく自分の心もあの人の心もそのままだ。けれど歌は詠えた。それでどうにかなるとは思えないけれど。この歌を残しそのうえで今静かに場を去っていく。どうにもならないことに辛さと悲しさを感じながら。


第七十四首   完


                  2009・3・20

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