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百人一首
71部分:第七十一首

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第七十一首

                第七十一首  大納言経信
 夕暮れ時。その日の光は昼のそれよりは穏やかなもの。
 その穏やかな光は眩くはないがそこにも美しさがある。
 どういった美しさかというとそれは見てこそわかるもの、感じてこそわかるもので。
 門の前の稲穂を見るとそれがわかる。
 稲穂はその光を受けて黄金色に光り輝き。その輝きが風の中で揺れている。
 その静かで穏やかだけれど眩くそれでいて美しい光はそこに留まらず。
 門を通って家の中にまで入って来る。
 葦ぶきの家の中まで入って来て照らしてきて。自分の服の袖まで照らしてくれる。
 袖は黄金色に輝いて。そのうえで風に揺れている。
 光と風のこの中でたたずみながら。心の中に歌が宿ったのを感じ取った。

夕されば 門田の稲葉 おとづれて 蘆のまろやに 秋風ぞ吹く

 秋の中静かに心の中に出た歌はそのまま黄金色の光を見ての歌だ。夏のあの激しいまでの強さはもうなく優しいものになっている。その優しい光を感じながら歌うこの歌もまた優しいものになっていた。
 秋風も今は優しく穏やかなもの。まだ寒くはなく実に心地よい。心地よい風がこれまた心地よい光を運んでくれる。その二つの中で過ごす秋の夕暮れ。決して悪いものではない。このことを歌にも残して今は穏やかに時間を過ごしているのだった。


第七十一首   完


                  2009・3・9

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