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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 28
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壁を睨みつつ口惜しさで奥歯を噛み締め拳を握ると、神父が耳元で盛大に吹き出した。
 「十分図太いわよ、神経」
 「仮にも女相手に図太いとは失礼な! それより、さっきの「解放」ってどういう意味ですか? 単に誰かを落として「はい、終わり!」な演出がしたいだけなら、崖に拘る必要は全く無いですよね?」
 「ええ。正直、崖以外の高所であっても、果たされる役割に大きな差は無いと思う。でも、崖先へ続く道は通常自然界の領域で、人間世界ではありえない予測不可能な危険がたくさん待ち構えてるでしょ? そんな登り道を、落下する人物の半生に置き換えてみた場合はどうかしら。同族愛を旨とする排他的社会の掟とはまた違う、一種族だけでは手の打ちようが無い要素が絡む分、崖のほうが「生の複雑さ」や「厄介さ」の表現に、より深みと説得力を感じられるんじゃない? 崖って要は、様々な理由で瀬戸際へ追い詰められた人物達の精神や未来に大きな変化を齎す場所……記号なのよ。(しがらみ)に囚われた人物が「さぁ、此処からどうする?」と、人生の選択肢を突き付けられてるワケ。観客は答えを選ぶ瞬間の人物に自身を重ねて興奮状態となり、結果、臨場感を得ているの。で、作品の多くは落下した時点で終わり、人物は柵(過去)を断ち切ったと言えるから、即ち「解放」だと解釈したのよ。作品の傾向や展開によっては「現実逃避」になるけどね」
 「ふぅ…… ……ん?」
 なるほど。舞台劇とは単純に「誰が・いつ・何処で・何を・どうした、それで終わりか良かったね」で片付けられる物ではないらしい。
 意外な奥深さに感心しかけ、はた と顔を上げる。
 「……答えを選ぶ瞬間、に?」
 「そう」
 「じゃあ、みんな……崖落ちを期待させる意図があったり、期待して観てるわけじゃない、の?」
 「貴女の言う「崖ドボーン」は所詮、数ある選択肢の内の一つだもの。寧ろ、一時期世界中で濫用された結末に「またか」と落胆する観客のほうが多」
 「だからかぁ!」
 アーレストの言葉尻を打ち消し、頭を抱えるミートリッテ。
 誰に訴えても毎回何故か空回る「崖ドボーン」熱……漸く合点がいった。
 どれだけ奥が深かろうが、繰り返し同じ結論を見せられれば、いい加減欠伸も活躍したくなる。
 つまり
 『飽きられていた。』
 それだけの事だ。
 「人気作には大抵出て来る舞台なのに、誰も興味を示さないからおかしいとは思ってたのよ! 役者の聖地って、もしかして観客側の皮肉!?」
 「語源は役者達の「大作や人気作に出演できるほどの実力者」。当時は崖落ちが一流への関門と考えられていたの。今ではまぁ……皮肉になっちゃったわね」
 「なんてこと……」
 それでは「崖ドボーン」熱を分け合える仲間の存在なんか絶望的じゃないか。一緒に眺めたり飛び込んだりする事はおろか
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