Side Story
少女怪盗と仮面の神父 28
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たいに甘くて瑞々しい匂い。私はあれを知ってる。つい最近、ハウィスの家で二回も嗅がされた、あの匂いだ)
あれは……
「返事はできる?」
「!!」
パチッと開いた目が、人間とは思えない美顔に占領される。
反射的に悲鳴や拳を突き上げなかった自制心の強さに関しては、我ながら全力で誉めてあげたいと思った。
いきなり何の罰だ、これは。驚きのあまり心臓が破裂寸前なのだが。
「ミートリッテさん?」
辛うじて輪郭を保つ絶妙な距離で、二つの月が傾……ちょっと待て!
「大丈夫、起きました、平気です、故に即刻離れてください! 私の息の根を止めるつもりか!? 顔が近い! 近すぎるッ!」
ずぶ濡れのアーレストが、同じくずぶ濡れで仰向けに倒れているミートリッテの頭の両横に肘を置き、正面からじぃっと見下ろしていた。
体幹部には服が吸い取った水分の重みしか感じないが、両足の外側に触れているのは神父の足で間違いないだろう。
想定外の「崖ドボーン」のち、気絶のち、目が覚めたら拉致犯の男が跨がる格好で覆い被さってて、口付ける気かと疑うほどに顔が近い……。
よし、今だ! 仕事しろ自警団! 未成年拉致の上に強制猥褻の現行犯だぞ! やったね、捕まえたらお手柄だ!
……などと頭の中で必死に訴えてみるも、答えてくれたのは夜行性鳥類の「ほーうほーう」という鳴き声のみ。暢気な鳴き方が神父の雰囲気そっくりで、非常に腹立たしい。
「離れるのは良いけど、寒いわよ?」
「自分の所為でしょうが! 私で暖を取らないでくれませんかね!?」
「私じゃなくて、貴女が」
「大きなお世話ですッ!」
動こうとしないなら実力行使で退かすまで。
頭突きでも噛ましてやろうかと頭を上げ……ふにゃんと落ちた。
「気持ちわる……っ」
ぐるぅり歪んで回る神父の顔。悪寒で震え出した全身に、嫌な汗が滲む。吐き気を抑えたくて両手に力を入れるも、指先が跳ねるばかりで言うことを聞かない。
「落ち着いて。大丈夫、呼吸を合わせて」
「……っ」
アーレストの両腕がミートリッテの脇腹から背中へ通り、軽い力で上半身を圧迫する。
何をしやがる離せ変態! と罵る余裕も無くされるがままでいると、自分の物とは違う鼓動が少しずつ体に伝わって来た。
(……あったかい)
徐々に震えが治まり、脂汗も引いていく。干したての布団を連想させる温もりと安心感で、詰まっていた呼吸が安堵の吐息に変わる。
「……軽い動揺が残ってるわね。怖かった?」
「あの高さを後ろ向きで落下して尚、得意気に笑える太い神経はありません。くそぅ……折角生き残ったのに、ドボーンした瞬間以降の記憶が無いなんて! 勿体無いッ!」
伸ばした足の延長線上、ゆったり流れる河を挟んで対岸に聳える絶
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