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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 28
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ないのか。特別潜める気もなさそうな声量で、何かを話し続けてる。
 『……は、お前自身が嫌悪してやまない    の正式な になるって事だぞ?』
 『……承知しています』
 一人はぞんざいな言葉遣いの男性。
 もう一人は……あの人だ。
 泥やら何やらで汚くなってた私を抱き締めてくれた、温かい女の人。悲しい瞳の、優しくて綺麗な女性。
 『良いだろう。お前は が   を務めてやる。コイツはお前が、好きに見届けてやれ』
 『あ……ありがとうございます、       !』
 女性が、安心と喜びの色を顕わに声を弾ませる。彼女にとって嬉しい話……なんだろうか。
 『ただし。コイツには他の   同様、     を掛けておく。もしもコイツがアルスエルナにとって害悪となるなら、その時は』
 『させません。私が。決して。』
 所々聞き取れない男性の言葉をピシャリと遮る、女性の険しい声。男性は楽しげに喉を低く鳴らして立ち上がり、私の枕元で腰を屈めた。
 『だ、そうだ。折角だし、お前もこういう面白い女に育てよ? 間違ってもクソつまらない木偶の坊なんぞにはなるな。 が退屈する』
 (おきてるの……きづいてたんだ……)
 この人は誰だろう?
 燭台の明かりを背負って私を覗く男性の顔は、やっぱり薄黒い影に塗り潰されていて。
 腕を振り上げればぶつかる距離に居るのに、髪の色すら判別できない。
 『あ、……っふ……けほ! はぅっ、かふッ』
 あなたはだれ?
 尋きたくて出した声は、自分でも驚く掠れ具合だった。
 ヒュッと抜けた呼気が喉を痛め、焼けただれたようなヒリヒリした感覚に堪らず咳き込んでしまう。
 苦しい。
 『無理に喋るな』
 不意に、大きな手が私の頬を撫でて……あれ? すっごく甘い匂いがする。果物みたいな、瑞々しい匂い。
 (なんだろ……おちつく……)
 『良い匂いだろう? これはお前を縛る枷であり、お前を護る盾でもある。さぁ、目を閉じろ。恭順か、独立か、断罪か。今日この時より、お前の未来はハウィスの手に預けられた。ハウィスの未来も、お前の心得次第だ』
 『……わたし……しだ、い?』
 『そうだ。お前の行く道に幸多くあれ。我が   の娘、ミートリッテ』
 重たい目蓋が勝手に閉じていく。男性の指が私の前髪を丁寧に撫でて、離れた。
 この人は誰? 疑問は白く柔らかな夢に沈み……
 (……ああ、そうだった。ハウィスが私を拾い、看病してくれた日の夜。ハウィスとは別の誰かが傍に居たんだ。ちょっと高めの若い声なのに、動作や態度で妙な貫禄を感じさせる不思議な男性)
 完治後すっきり目覚めた朝の家には、ハウィスと私の二人しか居なくて。
 男性の存在は今の今までケロリと忘れてた。
 枷であり盾だと言われた匂いの事も。
 (甘い……果物み
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