70部分:第七十首
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第七十首
第七十首 良暹法師
秋にここにいた。寂しい秋のこの日に。
暫く中にいたが時間が深くなってきて少しずつ寒くなってきて。
冷たい風も吹いてきてそれが外だけでなく中にも入って来た。
そのこと自体はよかったけれど。それでも心が寂しいものを感じてきたのでそれにいたたまれなくなって。
それで外に出てみた。
外に出るともう夕暮れで。静かな長い影があってそれは自分も同じだった。
長い影は何処までも続いていくかのようだった。
奥の山は夕暮れで緑が赤くなっていて。鐘の音が遠くから聞こえてくる。それがまた寂しさを増していく。
落葉は辺りに満ちていて全てを覆い隠してしまいそうだった。ただ散っていくだけではなくてそこには風情というものがあった。ただ散るだけではない。美しさというものまで備わっていて世界というものを映し出している。それがわかる秋の落葉だ。秋にしかありはしない、笹屋かだけれどそれでもさかやかでありながら静かな美しさのある世界だ。
そうした全てが何か寂しくもの悲しいこの夕暮れ。それはここだけではない。
全てが同じこの夕暮れに包まれている。そのことを思っていると自然に歌が出て来た。
さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづくも同じ 秋の夕暮れ
この寂しさを歌にしてみた。詠ってみると寂しさが余計に募ってくる。けれどそれは全てを覆っていてしかも美しくもあり。歌に残してよかったとも思う。そう思いながら今詠い終えた。そうしてみると寂しさはそのままだけれど美しさに満足もした。そんな秋の夕暮れだった。
第七十首 完
2009・3・8
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