暁 〜小説投稿サイト〜
小才子アルフ〜悪魔のようなあいつの一生〜
幕間 瓦礫の中に埋もれる戦史
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
は同盟全土に中継され、同盟市民の心胆を寒からしめたが、ミュッケンベルガーから帰還する捕虜に至るまで一糸乱れぬ規律は感嘆をも呼んだ。
 「我々は今日、将来諸君を叛徒と呼ばずともよくなる日が来ることを確信した。我々は諸君のよい友人になれるであろうし、諸君もまた我々のよい友人になれるであろう」
 「言ってくれるものだな、あの軍人皇帝」
 平和の衣を着た勝利宣言をフォークやマルセル、帰還兵を後送する輸送艦隊の指揮を執ったアレクサンドル・ビュコック中将らはその真意を読み取り憤慨したが、大方の同盟市民は喝采で迎えた。
 帰還に際して四一〇年物のワインと酒肴、上等の衣服を贈られ戦傷の治療まで施された同盟軍帰還兵の大半もこれに加わった──帝国軍将兵も同盟人の厚意に感謝したが、フォークとマルセルが主導した『ホテル・ハイネセンのサービス』をもってしても、ぎりぎりの引き分け以上には持ち込めなかった!!──。
 さらに後日、捕虜交換を終え、千五百万人の捕虜を受け取ったミュッケンベルガー上級大将がオーディンに帰りつくと同時に元帥に昇進し、ケルトリング侯爵となった兄に代わってミュッケンベルガー伯爵家の家督相続を命じられたというニュースにも多くの市民が祝福を贈った。
 つまるところフリードリヒ四世の、帝国の演出にすっかりしてやられ、牙を抜かれてしまったのであるが、その事態に気付いて憂慮することができた者は、気付くことができた者さえ稀であった。 

 「やれやれ、大変な時代に生まれてしまったものだ。ゆっくり紅茶も飲めそうにない」
 帰還兵に約束された叙爵に加え、捕虜となっていた年数を勤務年数に算入し下士官兵は最高五階級まで、士官は三階級まで昇進させる措置が取られたほか、全員に最後に参加した会戦の生還章が与えられ、帰還兵のうち特に功績顕著な百名は新無憂宮に招かれて晩餐を賜り、皇帝自ら肉を切り分けられ酒を注がれる栄誉に浴したという帝国発のニュースを見ながらぼやいていたヤン・ウェンリーという士官候補生はその数少ない一人ではあったが、彼には現在も将来も、皇帝の戦略に対していかほどかの対抗策を打ち出すことも実行することもできそうにはなかった。
 そばかすの痕の残る、明らかに平民出身の上等兵に肉を取り分け、酒を注ぐ皇帝──余談ながら、帰還した捕虜に皇帝自ら酒を注ぐという儀式は後代にも受け継がれることとなる──の映像、副給仕を務める貴族が帝国最大の貴族ブラウンシュバイク公爵の甥フレーゲル男爵とシャイド男爵の二人であると紹介するニュースキャスター・ウィリアム・オーデッツの顔をリモコン操作して消したヤン候補生の手元には、士官学校校長を務めるシドニー・シトレ中将からの戦略研究科助教官への就任を打診する通信文のプリントアウトがごみに混じって放り出されていた。

 かくして、運命の歯車は動
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ