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小才子アルフ〜悪魔のようなあいつの一生〜
幕間 瓦礫の中に埋もれる戦史
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は飲み物だけいただこう。思いきり、甘くしてくれ」
 「はい閣下」
 手から紅茶のカップを受け取ると、紅茶の香気に混じって蜂蜜とジャムの匂いが鼻孔を心地よくくすぐった。せっかくの紅茶の味を台無しにしてすまない、との言葉を紅茶と一緒に飲みこむと、フォーク中将は臨時の代理であるこの副官をあと一カ月は続く目下の厄介な仕事が片付いた後も副官として手元に確保すべく手続きを取ることを決意した。有用な人材は、一人でも多く確保すべきだった。
 
 後方勤務本部はこのところ、病気療養のため辞職した前任者に代わって本部長に就任したフォーク中将以下繁忙を極めていた。
 ことに彼が委員長を兼任する捕虜交換実施委員会の業務は繁忙といった程度で済ませられる忙しさではなかった。
 フォークから末端の主計兵に至るまで、全ての将兵がルドルフ・フォン・ゴールデンバウムを目の前にしたかのような緊張感の中、タキオン速で頭脳と手足を働かせて動き回り、任務を完璧以上にこなすべく心身を削っていた。
 理由は帝国から提案された捕虜交換であった。
 そもそも事は二月の初め、銀河帝国皇帝フリードリヒ四世のメッセージを携えた帝国軍の新鋭戦艦エイストラとウールヴルーンが惑星エル・ファシルに現れ、捕虜交換を提案してきたことに始まる。
 捕虜交換はこれまでに幾度なく実施されてきたいわば不定期の恒例行事であり、別段珍しいことではない。
 同盟政府と軍の高官たちを驚かせたのはその規模と中身だった。
 「まさか、帝国は恒久和平を考えているのか」
 エル・ファシル星系駐留艦隊の副司令官アーサー・リンチ准将は帝国の使者の口上を聞いた瞬間、そう言わずにはいられなかった。
 過去に前例のない一千万人という規模、小規模な星系国家の総人口、大都市の人口に匹敵する人数の交換が提案されたばかりか、捕虜に対する待遇も異例だったからである。
 捕虜交換が確実に行われることのいわば保証として一足先に帰還を果たしたフォン・ブラウンという少佐が皇帝から直接託されたという最高評議会議長宛ての親書と捕虜宛てのメッセージの内容が明らかになると、准将の驚きは同盟軍全体が、のみならず同盟社会全体が共有するものとなった。
 『勇戦空しく敵中に囚われたる我が忠実なる兵士たちよ』
 少佐が持ち帰ったビデオメッセージの中の皇帝は捕虜に優しく語りかけ、労をねぎらった。のみならず主だった捕虜の名を挙げ、瞑目し、彼らを勇者と称えさえしたのである。
 『戦傷を受けし部下を庇って薔薇の騎士に立ち向かいしロベルト・ゲイナー、母艦に迫りし敵機三機を瞬く間に屠りしミヒャエル・ガランド、近衛の家の名を辱めぬ戦いを見せたオットー・フォン・リヒトホーフェン…そなたらの勇気と忠誠、天上に赴いた後も余は忘れぬであろう。余は最後まで戦場に留まり戦友の背中を守った
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