幕間 瓦礫の中に埋もれる戦史
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さて、悪魔である。
アルフレット・フォン・グリルパルツァーが地上車で装甲擲弾兵本部へ向かっていたのと同じころ。
エルロック・シャルメスと偽名を改めたこの悪戯者はハイネセンにおいてジャーナリストたちの溜まり場となっているカフェの屋上テラスで助手の偽装を解いたハスキー軍団とカツサンドを頬張りながら、双眼鏡の自分の仕事の成果を眺めていた。
三名の持つ特製の双眼鏡の先には、同盟軍の中枢・統合作戦本部ビルがある。
この神出鬼没の悪戯者は帝国のみならず同盟にも遊戯を仕掛けていたのだった。
「食器が打算中だばう」
「もうすぐボトルキープ決定だがう」
「んははははは、結構結構!俺様の見たいのは英雄の武勲でも名君のすんばらしい政治でもねえ…おもしろおかしい喜劇なのさぁ!作者ちゃんの真似っこでモブキャラ以下から昇格させてやったんだからよぉ、せいぜいいい仕事してくれよぉ、鋼の食器ちゃんよお」
鋼の食器、なるほど言い得て妙なあだ名である。作者はしもべの報告に高笑いする悪魔の台詞を密かにメモ帳に書きとめた。
「無断使用は禁止だばう」
「使用料は一回につきフルコースディナー百人分だがう」
と、思ったらゆかいなしもべに奪われた。
どうせ剽窃されるのは目に見えているのだし使わせてくれてもいいではないか、大飯食らいどもめ。
「やかましいばう」「がう」
痛い痛い、ハスキーパンチはともかく、こんぺいとうハンマーはやめなさい。あと、特大のドライアイスの塊をぶつけるのも。
「さあ、自由の国の大脱出が、ゴミの山に埋もれた執筆生活がはじまるぜえ!」
そんな自分を無視して繰り広げられるコメディに怒りを覚えたのか、それとも無事に食事を終えることができて満足したのか。
誰にともなく、悪魔が陽気な声で叫んだ。
ハーメルンの笛吹きの喇叭あるいはギャラホルンの角笛よろしく響き渡る悪魔の笑い声は、物語の舞台にもとからいた者たちにも押し上げられた者にも、人間たちには聞こえることはなかった。
だが悪魔の悪戯は確実に、彼らの運命を変えていったのである。
魔術師とその弟子の小達人の運命をも。
「閣下、お食事をとられてください」
「ああ、すまないがあとにしてくれ、大尉」
「ですが、もう十二時間以上何も召しあがっていません」
宇宙暦七八四年の自由惑星同盟首都ハイネセン、自由惑星同盟軍統合作戦本部ビルの別館一棟を丸々占有する後方勤務本部の一フロアを割いて設けられた捕虜交換実施委員会のオフィスで執務中だった本部長エドワード・フォーク中将は亜麻色の髪の副官の言葉に自分が時間も疲労すらも感じないほどに消耗していることに気づいた。
「食欲がないんだ。食欲を感じる神経もなくなったかのようにね」
「お体に障ります」
「で
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