63部分:第六十三首
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第六十三首
第六十三首 左京大夫道雅
こうなることはわかっていた。
何時かはこうなってしまう。わかっていたことだった。
あの人は皇族で内親王の地位にある。それに対して私はただの人でしかない。それだけの違いがもうあった。そのことはどうしようもない。
あの人との仲を引き裂かれることもわかっていた。何時かはこうなるものだと。そのことはわかりきっていた。
けれどそれは今のように人を介しての別れなぞではなく。そんな味気ない、何も心が動かないような、そんな別れではなくて。
あの人に直接会って。そのうえで言葉を交えさせて別れる。それで全てを終わらせてしまう。そんな別れがしたかった。
けれどこのことすら適わずに。ただ一人でこの場で別れの話を聞いただけ。あの人は自分の前には出ずに。ただ人から聞くだけだった。
このいたたまれない思いをどうしようかと思い歌を詠った。その歌は何かというとこの歌だった。今この気持ちを詠った歌を詠う。詠わなくてはこの気持ちがどうにもならないものであったから。だから今詠った。
今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな
あの人に最後だけ会いたいのだけれど。それも適わない。あの人は元々雲の上におられる方だった。私はこの地にいて仰ぎ見るだけだった。それは最初からわかっていたけれど。それでも最後位は奇麗に粋に終わらせたかった。それも適わず今はこうして歌を詠うだけ。それだけしかできない今の自分。その自分のことも思い気持ちはさらに沈んでいく。どうにもならない程に。
第六十三首 完
2009・3・1
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