62部分:第六十二首
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第六十二首
第六十二首 清少納言
あの人はまたやって来た。
昨日もそうだったしそれから前も。いつも足しげく私のところにやって来る。
そのことにどう思っているのかというと。あの人のことがわかっているから。わかってしまっているから。
あの人は私を好きなわけではない。ただ誘っているだけ。好きなわけではなく誘ってそうして遊びたいだけ浮気性な遊び人なのがわかっているから。それはもう見抜いているつもりだ。
だから私は心を開けない。あの人には決して心を開けない。
宋の国の古い話にある関所の関守は鶏の鳴き声を真似たその声に騙されて門を開けたと聞いている。
けれど自分は関守ではないから。この国にあってあの時の宋の古い時には生きてはいないから。だから騙されはしない。心を開きはしない。
心を開くことなくあの人を迎え入れずただ無視するだけ。あの人のことはもうわかっているから。
その今のことを歌にしようと思い筆を取り。そうして書き留めたその歌は。
夜をこめて 鳥の空音は はかるとも 世に逢坂の 関はゆるさじ
あの人はこれで来なくなるのだろうか。それはわからない。それとも心を入れ替えてそのうえで心をしっかりと持ってくれるのか。どちらもないだろうとは思う。けれど今はこの歌をあの人に届けて自分の心を伝えようと思った。歌に託した自分のこの気持ち。果たしてあの人に届くだろうか。
にくいと思っていてもそれでも歌にしてしまう。自分のこの曖昧さにも腹が立たないわけではないけれど。それでも今はこの歌を託すことにした。そうして今は静かに夜を過ごすことにした。一人の夜。あの人を入れず一人のままの夜。その夜の中で思うのだった。
第六十二首 完
2009・2・28
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