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暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)
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―――。

 んで、バスケットを片手に、ファーン領の森へやってきた。

 また一段と足が速くなったか、ここに来るまでの所要時間が(ちぢ)んだのを感じた。
 日差しが(なな)めに差し込む木漏(こも)れ日を浴びながら、俺は気持ちよく体を伸びをした。

「ん〜〜〜…ふぅ。 やっぱたまにここに来ると気持ちがいいな」

 森の中で俺はこの心地よさを一人占めしているようで気分がよかった。
 昔馴染(むかしなじ)みのミーア姉ちゃんもおらず、気兼(きが)ねなく解放感を堪能(たんのう)していた。
 勿論(もちろん)一人きりで、“誰も”ついてきてはいない。


 エンリコのおっさん…もとい、ファーン伯爵の領地までは来たものの、直接会う事はなかった。

 先触れはしないにしても、一言何か言っておかないと後々(あとあと)面倒になるのは俺でもわかる。
 門番と衛兵に適当に「散歩に来た」とだけ言っておけばそれで話は通る。

 ここの衛兵は中々聞き分けがいいから、俺も(らく)させてもらってる。


 殴って言い聞かせる手間も(はぶ)けるしな。


「〜♪」

 バスケットを揺らしながら、昔お母様に聴かせてもらったメロディを口ずさむ。
 もう聴く事のないメロディを中途半端(ちゅうとはんぱ)な所で途切(とぎ)れ、何度も最初から()り返してはテクテクと適当に()を進めた。

「〜♪〜〜♪」

 静かな静かな森の中で俺のメロディだけが奏でる。
 聴く者は自分以外にいないが、気にする事なく止まらなかった。

 気の(おもむ)くがままに右へと左へと進んでいて―――ふと、鼻歌を止めた。


「つまんねぇ」


 静かすぎて…何も無さ過ぎて俺は()きた。


「あ〜もうつまんねぇ。 もう何回も散歩に来てるのに、全然出てきやしないじゃないか」

 獣どころか小動物一匹すら見かけやしない。
 鬱蒼(うっそう)とした森なのに生き物の気配が近づいてこない。
 最近はずっとこんな調子だ。

 昔はちょっと歩けばあれほど(むら)がって襲いかかってきたってのに、今では寂しいものだ。


 ファーン領の森と言えば天然の国防とも呼ばれ、野生の迷宮と恐れられている。
 そんなに摩訶不思議(まかふしぎ)めいた(いわ)くつきの森ってわけじゃないが、方向感覚を狂わせる風景と野生の宝庫のようなこの環境(かんきょう)(おも)な原因らしい。

 迷い込む者には野垂(のた)れ死にと野獣の襲撃(しゅうげき)洗礼(せんれい)を浴びせ、奥深くまで(さそ)っては抜け出せなくなる魔境(まきょう)だ。
 軍隊規模で踏破(とうは)しようと
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