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時には派手に
第四章
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「今日は調子がよくて僕もね」
「ああしたかった」
「そうだったんですね」
「こんなことはなかったよ」
 コレッリ自身も言うのだった。
「これまでね、けれどね」
「今日はですね」
「あまりにも調子がよかったからですね」
「だからですね」
「舞台にいても出来たよ」
 舞台が怖い彼でもというのだ。
「本当にね、よかったよ」
「コレッリさんもそう言われますか」
「ご自身で」
「うん、言うよ」
 実際にというのだ。
「こうしてね」
「最高の歌でしたね」
「二回目も」
「いや、今日はいい舞台になりそうですね」
「まだ第四幕があるけれど」
「第四幕もね」
 トロヴァトーレは全四幕だ、その四幕目で登場人物のうちマンリーコを含めて三人が非業の死を遂げて終わりとなる。 
 その第四幕についてもだ、コレッリは言った。
「やるよ」
「はい、やりましょう」
「このまま」
「最後の最後まで」
「そうしましょう」
「やるよ」
 絶対にと言ってだ、コレッリは休憩に入り英気を養った。そのうえで最後の第四幕も演じきりこれまでにない賞賛を受けた。
 その賞賛が終わり舞台からも降りて歳月が経ってからだ、コレッリは親しい者達に語った。
「本当にあの舞台の時はね」
「特別だったね」
「貴方にしては」
「舞台が怖かったという貴方にしては」
「また別だったね」
「うん、特別だったよ」 
 まさにというのだ。
「ああしたことは」
「派手だったよ」
 その舞台を見た者も言う。
「実際にね」
「そうだったね」
「うん、何時になくね」
 それこそというのだ。
「調子がよかったからそうした時は」
「今みたいにですね」
「出来る」
「そうなんですね」
「うん、ただね」
 ここでこうも言ったコレッリだった。
「いつもこう出来るか」
「それは無理ですね」
「コレッリさんにとっては」
「そう、出来ないよ」 
 今日の様なことはというのだ。
「舞台が怖いからね」
「だから今日は特別」
「そういうことですね」
「今日みたいな日もある」
「調子がよかったら」
「そうだよ、いつもこうは出来ないよ」
 あくまで今日は特別だというのだ、こう話してだった。
 第四幕最後の舞台に向かうのだった、この日の彼の舞台は話題になったが確かにこうした日は彼にとっては珍しいことだった。
 フランコ=コレッリはイタリアオペラ黄金時代を支えたテノールの一人と言われ今も尚人気が高い。しかし舞台に出ることを恐れていて何かと問題も起こしていた。その彼がここまでしたことは非常に珍しくそれだけに逸話として残っている。この逸話は彼にとっては非常に珍しい話である、だが非常に面白い話だと思い作品の題材にさせてもらった。この話が一人でも多くの方
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