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百人一首
57部分:第五十七首

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第五十七首

                  第五十七首  紫式部
 久方ぶりに出会ったあの人は。
 本当にあの人なのかという程変わってしまった。
 変わってしまったというよりは。
 まるで別人のようだった。
 以前のあの人とは何もかもが変わってしまっていて。それで昔のことをすぐに言葉に出すことも話をすることもできはしなかった。
 けれど何とかして思い出して。それで昔のことを話そうと思っていたのに。
 あの人はすぐに帰ってしまった。挨拶をしてすぐに。私の前から姿を消して帰ってしまった。本当にあっという間に帰ってしまった。
 その様子は月が雲に隠れるようで。早々に帰ってしまった。
 その帰ってしまった様子を見送って驚くばかりだったけれど。
 それでも思わざるを得なかった。去ってしまったあの人のことを。
 もっと話がしたかったのに。思い出を一緒に話したかったのに。その思いはあっという間に消えてしまって。後にはやっと思い出してきた昔の思い出があるばかり。今思い出しても仕方ないけれど。それでも今になって思い出してしまう。

めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな

 歌はその中で自然に言葉となって出て来た。詠ってみるとこれでどうにもやりきれない気持ちが幾分かだけれど和らぐような気もする。
 けれどあっという間に消えてしまったあの人と思い出した思い出はそのままで。このことにどうしてもいたたまれなくなりながら。一人たたずむばかりだった。一人でいてもどうにもならないのだけれど。


第五十七首   完


                  2009・2・23

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