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最後の無頼派
第七章

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「寂しくなったものだ」
「あっという間にね」
「皆去って」 
 そしてだった。
「僕達だけになったね」
「今度はどちらか」
「そうしたことだね」
「どちらかな」
「さてね、まあ最後の一人になっても」
 石川は壇に語った。
「僕は僕のままでね」
「無頼にだね」
「書いていくさ、古い価値観とかもう言わなくなったけれど」 
 戦争が終わり十年を経た、もう新たな価値観が文壇にも出来ようとしていた。
「けれどね」
「それでもだね」
「僕は僕の書きたいものを書くよ」
「そのスタンスを変えないね」
「そうしていくよ、これからもね」
「じゃあ僕も同じだ、こうして飲んで遊んで」
 壇は自分の家庭のことも心で振り返って自嘲も込めて言った。
「そのうえで」
「そしてだね」
「書いていくよ」
「最後の一人になっても」
「あくまでね」
 こうしたことを二人で話した、そlしてだった。
 この日も二人でウイスキーを気のおもむくままひたすら飲んだ、そして遊び書いていった。だが外はもう復興していて戦禍の爪痕は消えていた。
 そしてだった、壇は火宅の中に居続け還暦を越えて世を去った、その後で。
 石川は編集者と共にだ、自宅にいてこんなことを言った。
「遂にだね」
「はい、壇さんもですね」
「去ったね」
「これで、ですね」
「僕一人になったね」
 こう言ったのだった。
「遂に」
「そうですね」
「長かったよ」
「長かった?」
「うん、随分とね」
 こう言うのだった。
「壇君は長く書いたよ、そしてね」
「先生もですね」
「僕もね」
 石川は遠くを見る目で編集者に語った。
「まさにね」
「これまで、ですね」
「書いてきたしね」
「それにですね」
「これからもね」
「書くんだね」
「そうするよ」
 こう言うのだった。
「まだね、しかし」
「しかし?」
「いや、遂に一人になったね」
 石川はまたこう言った。
「あの時から三十年経って」
「三十年ですね」
「戦争が終わってね」
「三十年経てば」
 それで、というのだ。
「もう誰も残っていないと思っていたよ」
「織田さんも太宰さんも去って」
「そう、田中君も坂口君も死んでね」
 もう遠くになっていた、今は。
「それで僕もね」
「今頃はですか」
「死んでいたと思っていたよ」
 そう考えていたというのだ。
「まさかこうなるなんてね」
「先生が最後に残られるとは」
「もう僕も長くないかもね」
 こうもだ、石川は言った。
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