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最後の無頼派
第六章

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「僕は子供が無類に可愛いからね」
「そうか、じゃあ子供を大事にするんだ」
「君がそうしたいならね」
 石川も壇も二人に暖かい声で返した。
「そうしたらいい」
「僕達はその君を応援させてもらう」
「お子さんを大事にしてね」
「そうして生きていくんだ」
「そうするよ、子供の為に」
 まさにとだ、また言った坂口だった。
「生きていくよ」
「うん、これまでの君からは想像出来ないけれど」
「そうして生きていくんだ」
「それならね」
「君が決めたのならね」
 二人もその坂口を祝福した、コーヒーを飲みつつ。だが。
 二人の言った通りになった、坂口は我が子を可愛がるその中で急に倒れて死んだ、彼もまた急に世を去った。
 そしてだ、残った二人は。
 バーで飲みながらだ、こんなことを話した。
「坂口君もだったな」
「うん、そうだったね」 
 壇は沈んだ顔で石川に答えた。
「やっぱりね」
「太く短くだったね」
「子供が出来て」
 壇は彼のそのことを話した。
「それで生活をあらためようと思ったら」
「それがだったね」
「急にね」
「僕達らしい死に方かな」
「僕達はね」
 無頼派、彼等はというと。
「誰もが太く短く」
「花火みたいにだね」
「死んでいくね」
「誰もがね」
 本当にとだ、二人で話す。そして。
 壇はウイスキー、終戦直後とは違い今は氷も入れられる様になったそれを飲みながらだ。石川に言った。
「僕もね」
「太く短くというんだね」
「そうしていくのかな」
「僕達はそれでいこうと思ったからね」
 石川はその壇に達観した顔で答えた、彼もまたウイスキーを飲んでいる。
「だからそれでもいいね」
「うん、織田君も太宰君も死んで」
「田中君も去って」
「坂口君も」
「だったらね」
「僕達もね」
 二人共というのだ。
「もうすぐかな」
「太く短くね」
「そうなるだろうね、まあ僕は」
 壇は飲みつつ自分のことを考えて石川に言った。
「もうすぐかもね」
「相変わらずかい、君は」
「相変わらずだよ」
 自嘲してシニカルな笑顔での返事だった。
「まさに火宅だよ」
「今度それで書くのかい?」
「作家は自分の身体を切り売りするものだろ」
「心もね」
「だったら書くさ」
「君の家のことをだね」
「そう、書くよ」
 実際にというのだ。
「そうするよ」
「そうか、僕もだね」
「そうするのかい?」
「書ける話があればね、しかし」
 ここでだ、石川は。
 ふとバー、彼等が今いるルパンの中を見回してからだった。壇にあらためて少し溜息をついてからこんなことを言った。
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