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百人一首
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第五十六首

                  第五十六首  和泉式部
 決して治ることのないこの病。
 自分が病にかかりそれにより苦しんでいること。
 一人になった時それを深く強く感じずにはいられない。
 一人になれば余計に感じる。感じてその苦しみの中にさらに落ちてどうしようもなくなっていく。
 間も無くこの世を去ってしまうだろう。
 そのことすら感じている。
 病はどうしても離れはしない。それでもだった。
 彼岸に旅立ってもあの人のことは忘れない。 
 どうして忘れられるというのか。
 彼岸でもあの人のことは忘れないし恋慕い続けていく。
 この恋は真実だからだからこそ。
 永遠に恋になる。慕う気持ちは彼岸でも変わらない。それは変えない。
 だからこそ。だからこそ今心の奥底から強く願う。
 あの人に逢いたい。一目でいいから逢いたい。
 最後の思い出に逢いたい。それを願いさらに苦しみの中に身を置いて、それでも願う。
 その願いを今歌に託して。そのうえで詠う。

あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな

 歌をあの人に届けこの想いを伝える。もうすぐ彼岸に旅立つことになろうと思っているからこそ逢いたい。逢ってこの想いを伝えて満ち足りて旅立ちたい。そう思いつつ歌を詠う。このどうにもならない気持ちを抑えつつそうして。今は一人心の中にそれを持って。詠うのだった。儚い想いを。


第五十六首   完


                   2009・2・22

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