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真の醜悪
第一章

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                 真の醜悪
 赤鬼と青鬼は地獄でこんなことを酒を飲みながら話していた。
 まずは赤鬼がだ、青鬼に言った。
「のう、これまでで一番悪い奴は誰だったと思う」
「ここに来た人間でか」
「そうだ、誰だったと思う」
「あれだろ、謀反人のだ」 
 青鬼は赤鬼に応えて言った。
「松永弾正だろう」
「あいつか」
「そうだ、あいつは悪いだろう」
「悪弾正と言われただけにな」
 赤鬼も彼のことは知っているので応える。
「流石の悪さだな」
「だからな」
「あの者か」
「あれが一番悪いだろう」
「主家の屋台骨を食い荒らし乗っ取る様にして将軍を殺して大仏も焼いた」
「極めておるわ」
 まさにというのだ。
「あの者はな」
「そうだ、だからな」
「そうか、御主はそう言うか」
「違うというのか」
「わしはな」
 赤鬼は青鬼にこう言った。
「ほれ、あの平家の」
「ああ、牛頭と馬頭がわざわざ迎えに行ったな」
「あの入道じゃろ」
「平清盛か」
「あの者ではないか」
「ふむ、あの者か」
「あの者も大仏を焼いた」
 最初に焼いた者である。
「あの者か」
「確かにな」
「そうであろう、あの者はな」
「かなりのこともした」
「だからと思って名を挙げたが」
 赤鬼は青鬼に言った。
「どうだ」
「待て、かなりのこともと言ったな」
「うむ、確かにな」
「確かにあの者は専横を極め大仏を焼いたが」
「それでもか」
「身内や家臣を大事にし政自体もな」
 そうしたことを挙げるのだった、清盛の。
「よかったぞ」
「そういえば厳島明神は最後まで庇っていたな」
「本当の悪人なら厳島明神も庇うまい」
「確かにな」
 赤鬼も言われて頷く。
「そうであるな」
「そうであろう、それに地獄でも素直に刑罰に服しておる」
「潔くな」
「風格もある、卑しい者ではない」
「ではか」
「あの者はそこまで悪くはない」
「そう言うとじゃ」 
 赤鬼は青鬼の言葉を聞いて彼にこう返した。
「松永弾正もだぞ」
「あ奴は根っからの謀反人であるがな」
「うむ、あれでよいこともしておる」
「悪事には風聞も多い」
「だからな」
 それでというのだ。
「あの者もな」
「ましか」
「悪でも卑しくはないしやはりここでも堂々と報いを受けておる」
「卑屈にならずな」
「己の罪を認めてな」
 こう青鬼に言うのだった。
「ではな」
「あの者もじゃな」
「卑しくはない」
 決してというのだ。
「あれでな」
「ううむ、そうなるとな」
 青鬼は赤鬼の言葉を聞いてだ、深く考える顔になって彼にこう返した。
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