第六章
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「まあ豚肉、お酒、ワンちゃんはアッラーに謝れば許してもらえるけれど」
「寛大ですね」
「神様は旧約聖書の神様だけれどね」
コーランの神即ちアッラーとヤハウェの神は同じ神だ、あの些細なことで厳罰を下す神とだ。
「寛容なのよ」
「性格全然違うんですね」
「ちょっとやそっと以上のことでは怒らないわ」
コーランの啓典の民もダビデもソロモンも神罰を受けてはいない、誰もが逆境になるとかえって発奮し苦境を突破しハッピーエンドになる。勿論ムハンマドもだ。
「だからいいの、ただし」
「このサウジアラビアは」
「戒律の厳しい国だから」
「メッカがある国ですし」
「そうしたことは他の国以上にしっかりと守らないとね」
「駄目ですよね」
「改宗したらね」
その時はというのだ。
「そしてそのうえで」
「ラシードさんと」
「そうなるわよ」
「ですからそこまでは」
苦笑いになってだ、由乃は美樹に答えた。
「勇気がないので」
「だからよね」
「宗教は今のままでいいです」
これが由乃の結論だった。
「確かに物凄い美男子ですけれど」
「お金持ちでしかも仕事も辣腕家だけれどね」
「王家の方とも血縁で」
「一緒にお仕事をしていたらわかるけれど紳士で人格者でもあるから」
「かなりハイスペックな人ですね」
「けれどね」
「はい、改宗は」
そうすれば既に妻帯者の彼であるがコーランに則り第二夫人になりなることが出来るがだ。
「出来ないです」
「無理ね、じゃあそうしたことは置いておいて」
「お仕事ですね」
「頑張るわよ、折角はるばる日本から来たから」
美樹の微笑みが変わった、仕事をする人間の微笑みに。
「いいわね」
「はい、頑張ってお仕事をして」
由乃も応える、意気込んだ顔になって。
「成功させましょう」
「絶対にね」
「砂漠の王子様と一緒に」
小さな身体の両手を拳にして胸の高さで掲げてだ、由乃は言った。そうしてトウブ姿の彼と共にする仕事を楽しみつつ励みだった、帰りは美樹と共に機内でワインで乾杯した。
トウブ 完
2016・8・26
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