44部分:第四十四首
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第四十四首
第四十四首 中納言朝忠
今になって。一人になってそこで思うようになった。
それまでは思うことはなかった。
春の中にあっては思うことはなかったこと。
若しもこの世に契りというものがなかったら。
彼女との思い出がなかったならば。
そうしたことがこの世にありはしなかったならば。
そうだったならば今嘆くことはなかった。起こってしまったことを今更悔やむ日々を送ることもなかったというのに。
別れを恨むこともなかったし今の我が身の不幸を嘆くこともなかった。
悲しむこともなく。世の中そのものを悲しみで見ることもなかった。
そんな悲しみと嘆きで思うことはもう一つ。その一つを思うことだけでもこの身を引き裂いてしまわんばかりに辛く生きづらくなってしまうのだけれど。
あの人を恨んでさえいる自分への腹立ち。その浅ましさへの腹立ち。
そのことに何ともし難いものを抱きつつ歌を口ずさむ。それは。
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
歌になって出た嘆きと悲しみ。恨みを抱いている己への嫌悪。そうしたものを胸に抱いてそのまま眠る日々。
あの時の夜はもう帰っては来ない。そのこともまた思いつつ一人の夜を過ごす。悲しい夜はこれからも続いていくのであろうか。
第四十四首 完
2009・1・27
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