第46話
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なるほど確かに、互いの“野望”のみを顧みれば、両軍の戦ほど無駄なものは無い。
しかし――
「戯け! 我が袁陽の頭を垂れさせるなど壱万光年早いわ!!」
「あら、交渉決裂ね」
お互いが持つ、上に立つ者としての気質がそれを許さない。許すはずも無い。
第一、下の者達が納得しないだろう。
我が主君こそが――と、この場に居る彼らだ。
こんな形で決着がついては、主を中心に巨大な派閥を作り、内乱の種になる筈だ。
結局の所、相手を納得させるには力を示すほか無かった。
華琳の提案は、袁紹のふざけた第一声に対する返しだ。
「だが、我が提案は冗談ではない。降伏せよ華琳、勝負は既についている」
真面目な声色で聞こえてきた二度目の降伏勧告には、さしもの華琳も耳を疑った。
相手を取り込むには力を示すしかない。そうお互いに認識していたものと思っていたからこその驚きであった。
だがその認識も、袁紹側から見れば少し変わってくる。
相手は陽に次ぐ大国の魏。戦う事無く降伏などすれば確かに下の者達は納得しないだろう。
華琳を中心に派閥を作り、機を見て彼女を立てようとするはずだ。
その行動を華琳が良しとするだろうか。彼女であれば部下を纏め、制御するはずだ。
大体、袁陽はこれまでにも幾つか無血併合に成功している。
その経験を元に、華琳を含め魏軍を御す自信があった。
「もう一度言うぞ華琳、勝負は既についている」
袁紹の自信満々な言葉に、華琳は私塾での出来事を思い出した。
『袁紹殿は戦術に興味が無いのですか?』
ある日、塾生の一人が袁紹に浴びせた言葉だ。
彼の疑問はもっともである。華琳を含め、塾生の殆どが戦術論に花を咲かせる中。
袁紹は相槌を打つ程度で、会話には積極的に参加しなかった。
『興味が無いわけではない。我にとって優先度が低いだけだ』
そんな袁紹の返しに塾生達は顔を見合わせた。当時から賊が活発に活動していただけあって、戦術の有用性が見直されたばかり。
仕官、あるいは太守に任命した場合、賊共をどのように蹴散らすか。
既存の、もしくは自身で考えた戦術を使い華々しく戦果を挙げる。
塾生達は若いだけに、戦術での圧倒的勝利にあこがれていた。
特に、大軍を率いての戦を想定した議論には目が無い。
そんな大戦術を実現してのける大勢力、袁家の次期当主が戦術に興味が無いなんて――
彼らの表情を見て袁紹は苦笑する。別に興味が無いわけではない。
戦術よりも優先すべき前提に着目しているだけだ。
『我は兵力と補給の確保、戦略的勝利こそ最善であると考えている』
『つまり、多数を率いて少数に……ですか?』
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