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スキュア
第一話
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力は「血液を操作できる能力」彼女にかかれば、血液でバルーンアートのような芸術作品を作ることも爪や武器といった戦うための能力としても活用できる。俺にとっては、よい修練の相手でもあり、よき理解者でもある。身長も168cmと女性にしては高めで、細身の体型を制服で覆い、茶色のウェーブがかった髪をまとめもせず、なびかせていて、真黒などんぐり眼がどこか中毒症状を引き起こすほど人をひきつけ、ぽってりとした唇は艶やかにその存在を主張している。言葉は丁寧というか、他人行儀なところもあるが、それもまた彼女の魅力ともいえるだろう。
「それじゃあ、お昼ご飯位はきちんと食べてらっしゃい」
 それだけ言い残すと、真冬は来た道を踵を返して学園の方へと向かっていく。俺はそんな彼女の後姿をぼけっとした顔で眺めたままでいると、彼女の姿はやがて小さくなり、そしてついには目に見えなくなった。
 虚しさを少し感じたのか、駆は先ほどまで根づいたように動かなかった重たい腰を上げて、ゆっくりと寮の方へと足を向けていく。まずは食事と服装をどうにかしないことには学校にも通えない。俺はのんびりと足を運びはじめた

***

 俺は歩いていた。名前からすれば勢いよく駆けていくという位の方が名が体を表すということも言えるだろうが、彼に言わせれば、全力疾走するというのは間に合うときくらい、もしくはエネルギーが十分に満ち足りているときのみで、後はできることならゆっくりと歩きたいという独自の信念に基づいている。その肩に背負った槍は彼の背丈よりも長く、時折木の枝に引っかかるように動きを止める。その度に駆の足は止まり、引っかかった木からの分離に躍起になる。彼が訪れるこの場所は森の中に木が生い茂り、あまり人の寄らないような区域に存在している。少なくとも通常の学生生活をしている中では、確実に森の中に入ったりすることもないだろう。
「ん……。相変わらず背の低い木ばかりだな」
 180cmはあろうかという体で、それ以上の長さの槍を持ち運ぶというのは常に頭上への注意を怠ることができない。かといって、肩に担がなければ、今度は木の幹に槍頭や石突に当たり、あちこちに不要な傷が入ってしまう。筋肉質で巨体な見かけによらず、俺の中身はどうでもいい所で繊細さを時折醸し出す。 森の凸凹道を抜けていくと、ようやく目の前に寮の裏口が見え隠れする。普段はその裏口から出入りをしているわけだが、どういうわけか、ここに来て以来毎日のように俺が出る少し前に誰かが出て行った跡がある。しかし、その誰かを駆は一度も目にしたことがないのである。一度待ち伏せてみたこともあるが、その時はネズミ一匹、その裏口を通ることはなかった。彼はその不思議をいまだ誰にも話せずにいる。どこかその異様なモノを誰の手も借りずに見てみたいと思う、単純な好奇心からである。


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