第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#17
DARK BLUE MOON\ 〜End Of Sorrow〜
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いやられていた。
『定められた時間』 まで、後3年という時期。
自分でも、よく持った方だと想うべきだろうか?
湿った体液の匂いが染み着いた錆だらけのベッドの上で、
まだ死にたくないという気持ちと、もう良いかという気持ちが何度も交錯した。
恐らく、後者の気持ちの方が強かった。
このまま疫病に魘される茫漠とした意識のまま、
その苦悶を逆らうコトなく黙って受け入れれば、
スベテを終わらせるコトが出来る。
己を取り巻く苦しみ、哀しみ、そして憎しみ、そのスベテから解放される。
後には、何も遺らない。
肉体も、精神も、存在すらも。
ソレで良いか、と想った。
どうせ自分には、何もない。
本当に、驚くほど何も無い。
生への執着すらも。死への恐怖すらも。
……もういい。
考えるのを、止めよう。
このまま黙って眼を閉じていれば、もう気がつくコトさえない。
さようなら。
さよう、なら……
誰に宛てた言葉かも解らないまま、意識は死の暗黒へと呑みこまれていった。
戻ってくるつもりは、なかった。
その、とき。
口唇に触れる、温かな感触が在った。
朦朧とする意識のまま瞳を開くと、そこには、己の渇いた口唇に
自分の生気に溢れた瑞々しい口唇を重ねる少女の姿があった。
そして、甘やかな感触とは裏腹の、異様に苦い粘性の液体が少女の口中を通して
自分の喉に注ぎ込まれる。
一瞬、彼女が何をしているのか解らなかった。
アレ程罵倒して、侮蔑して、暗い感情を充たす為だけに彼女を扱ってきた自分に、
『こんな事をするわけがない』
第一、この病は伝染るかもしれないのだ。
大事な 「商品」 である彼女を奴等が、数日後には裏手の溝川へ襤褸雑巾のように
打ち捨てられる自分の傍へ近づける筈がない。
『ということは』
よく見ると、頬に殴られたような痕が有り新品である筈の娼館着も薄汚れていた。
今自分に口移しで注いでいる薬を得るため奴等に懇願した結果か、
或いはどこからか盗んできたのかもしれない。
何れにしても、そんな事がバレればただでは済まない。
それ以前に、自分にそんなコトをしてもらう 「資格」 はない。
今まで何もしてやらなかった、傷つける事しかしなかった自分に。
放っておけば良い、そんなコトまでして助ける価値など、自分にはない。
死んだって誰も悲しまない。誰にも必要とされていない。
『だからもう良いと想ったのに』
震える腕を伸ばして、口唇を重ねる少女を押し退けようとした。
しかし想いとは逆に力が入らず、肩より上へ動かす事すら出来ない。
この役立たず!
自分自身に激しい怒りを感じた。
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