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百人一首
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第三十一首

                第三十一首  坂上是則
 朝になってまず気付いたことは。
 そのあまりにも明るい夜明けだった。今まで経験したこともないような明るい夜明けなのに最初に気付いたのだった。
 これは有明の月のせいでそのおかげで明るいのだろうとまず思った。
 それで窓を開けてみるといきなり眩しい位の光が飛び込んで来た。
 その白く眩い光に目を奪われてしまったが暫くしてその光にも馴れてきて目の前をしっかりと見てみると。
 そこには雪があった。一面に降り積もった雪があった。見渡す限り一面の銀世界でまるで光がそこにあるかのようだった。
 その雪を見て思い出した。ここは都ではないのだ。
 ここは吉野。旅で来た吉野の里。そこなのだ。都にはないまた別の美しさがある世界だった。自分は今そこにいつのだということを思い出したのである。
 その吉野の雪鏡を見て歌心を思い出した。雪に誘われ歌心を思い出しつつここで詠うのは。

朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪

 こう詠った。吉野の静かな白雪。その雪の原を見つつその明るさに親しみ。
 今は旅先のこの白を楽しむことにした。一人静かに。ささやかかも知れないけれどとても贅沢な旅の楽しみ。冬にしか味わうことができない楽しみを今この吉野で味わうのだった。


第三十一首   完


                  2008・12・29

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