アブソーブディシジョン
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…!」
いつ救助が来るかもわからない極限の状況下でありながら、瀕死の状態に長く耐え続けてきた老人に、なのはは悲痛な表情で彼の手を握る。彼の強く切実な想いを受け止めながら、彼女は激しい悔しさを感じていた。
なぜもっと早く来れなかったのか。
なぜこの人が死ななければならないのか。
そう言った無念がなのはの心の中を渦巻いていく。だが彼女は決して折れなかった。不屈の心を以って、その無念は友を助けるための力へと還元されていった。
「お主達……すまぬが、最後に一つ……伝言を頼まれてくれんか」
「? はい……頼みって、何でしょう……?」
死が目前に迫っているためか、老人は細々とした声量で辛うじて言葉を紡ぎ出した。
「ノアトゥンで、生き延びているであろう……息子に……『これからはお主が導け』と。ハジャル・ラピス・ミーミルがそう言ったと……ロックに伝えてくれ……!」
「……わかりました、必ず伝えます……!」
なのはの返事を聞いてようやく安心した老人は果たすべき役目を終えた途端、ふっと全身から全ての力が霧散し、安らかな死の眠りについた。誇りある命が散華していき、事の成り行きを見守っていたジャンゴは静かに冥福を祈る。そして老人を看取ったなのはは、一旦俯いて肩をしばし震わせる。やがて顔を上げると、彼女はゆっくりと老人を横に寝かせてやった。
「……ねぇ、ジャンゴさん。目の前で人が死ぬって、こんなに哀しい事なんだね。4ヶ月前、私が死んだと聞いた皆も、こんな辛い気持ちになったんだろうね」
「多分ね……いつの世でも、どこの世界でも、人の死とは辛いものだ。それが知人だったら尚更だけど」
「うん……でもね、だからこそ忘れちゃいけない事がある。私達は……託された。サバタさんが未来に命を繋ぐ意思を伝えたように、この人も息子さんに想いを伝えようとした。だからその想いを伝えるために、私達は生き延びなければならない。この世界を守り抜かなければならない……でしょ?」
「ああ、その通りだよ。僕達はここで立ち止まってる場合じゃないんだ」
ジャンゴの返事を聞き、徐に立ち上がったなのはは曇天の空を見上げる。今は雨天で、更に夜なので周囲は明かりのある所以外は真っ暗だった。だが……、なのはの心に宿る光は昼間の太陽の如く燃え上がっていた。
「明日もまた日は昇る。フェンサリルの騒動も、いつかは収まって平和になる。そんな未来が訪れるように、私は飛ぶよ。私の翼で、人の心を、想いを、光を、未来へ繋いでみせるよ」
強く断言したなのはの姿を見て、ジャンゴは彼女の有り様にサバタの姿を一瞬重ねた。そして……彼の心にある太陽が黄昏を越えて暁となり、再び光が放たれつつあるのを感じる。それはジャンゴの心の傷が癒え、太陽少年が本来の輝きを越え
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