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霊群の杜
書の洞
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るシステムだ。確か中学の制服だったと思われる白のワイシャツに、恐ろしく古い黒の羽織を適当に羽織って寒さをしのいでいる。…適当なのだ、何もかも。
「他に誰が来るんだよ。ややこしい隠れ家作りやがって」
「カムフラージュだ。植え込みで隠したくらいじゃ、目敏い小学生が入り込んでくるんだぞ」
奴は本から目も離さずに、無愛想に返してきた。いつも通り傍らに立っている小柄な少女が、肩あたりで切り揃えた綺麗な黒髪をさらりと揺らして軽く会釈をする。綺麗な二重の切れ長の双眸は、常に伏し目がちだ。
「…よ、きじとらさん。今日は袴なんですね。…袴も、お似合いです」
きじとらさんは、少しだけ笑う。あまり饒舌ではないこの子がどうして常に奉の傍らにいるのかはよく分からない。こいつも大して話が好きなタイプじゃないし、気を遣うタイプでもない。俺が居ない間ひたすら沈黙してんのか。書が溶けて出来た洞の中で。究極につまんねぇ空間だろ。
「あと、そろそろ試験だぞ。大学にもたまには来い」
「代返頼むよ」
「出来るか!俺が留年するわ!!」
「それより甘味は持ってきたのか。持っていれば茶を出す」
「手土産がないと茶も出さないとかもうな……」
追分だんごの豆大福を取り出してきじとらさんに渡すと、彼女は小さく会釈して更に奥の暗がりに消えた。
「当然だ。霊験高き玉群神社のご神水で淹れた茶だぞ、只で飲めると思うなよ」
「何が霊験だ。ここの御神体がお前みたいなたわけ者と知ったら、あの婆さんの寿命も3年は縮まるわ」
懐紙を引いた皿に乗った大福が、香りのいい茶と共に出て来た。…確かに、ここの水で淹れた茶は格別に旨い。きじとらさんが淹れてくれた茶だから、だろうか。ちらと目を上げると、彼女と目が合った。慌てて目を反らす。…このひとの、偶にじっと凝視してくる感じが少しだけ苦手だ。俺は割とシャイなのだ。


玉群 奉。


この辺りの大地主、玉群家の次男坊だ。俺は昔からこの家に出入りがある造園屋の息子で、小さい頃から親父の仕事について行っては、ここの子供たちと遊んでいた。兄さんも妹も割と普通の子だったが、こいつだけは小さい頃から変わっていた。
 俺が物心ついたころから、奉はこの洞に居着いて書を読んでは捨てていた。同じ年の俺に無理やり引っ張り出されて嫌々遊ぶ以外は、いつもここにいたものだ。学校も来たり来なかったりだった。

 小さい頃から目を酷使していたせいだろうか、ずいぶんと昔から、奉はずっと眼鏡をかけていた。薄い煙のような灰色が入った丸い、同じレンズの眼鏡をフレームだけを微妙に変えて使い続けている。奉の話では、このレンズはガラスではなく、何かの石を磨いて作ったものらしい。
「こいつは象が踏んでも壊れないんだ」
と奴が得意げに言うのを、幼い俺は真に受けて思い切り踏みつけた事があ
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