覇王〜小さいおじさんシリーズ12
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「困ったものだ…」
「弱りましたねぇ…」
大寒が過ぎ、雑草の中に白や青の色合いがぽちぽちと混ざり始めた、早春の巷。この浮き立つような陽気の中で。
嘗て大陸で覇を競った3人の英傑達が、額を寄せ合ってぼそぼそと喋っていた。
「何を深刻になっているのだ。云っておくが、余の方が格上なのだぞ、そ奴の好きにはさせんわい」
俺が輪切りにしてやったバウムロールをつまみながら、豪勢な錦を羽織った奴がもごもご口を動かした。食べながら喋るなよ汚いな。端正な顔立ちの奴は、キッと豪勢を睨みつけた。
「勘違いするな。同格だ。…そもそも彼は『格』とかを全く念頭に入れないし、基本的に空気は読まないぞ」
「はぁ…最近、どうも『呉』づいておりますねぇ」
「俺のせいだと云いたいのか!?二喬、二喬と散々せっついたのはこの男だぞ!?」
「はん、むさ苦しい男所帯にまた男増やそうとしやがって。あんなの呼ぶくらいならまた二喬呼べよ。あのセクシー姉ちゃん達もセットで」
「俺が呼んだわけじゃない!」
どうも、今日来る予定の客についてモメている様子だ。いつも通り、困ったちゃん系の人物と思われる。うーむ…呉で困った感じの奴、困った感じの奴…いやいや、こいつら絡みの客で困ったちゃん以外って居るのか。
「第一、彼がご丁寧に来訪予告を出してきたのはどうしてでしょう」
白頭巾が他の二人を丁寧に、丁寧に睨め回した。
「貴方が、彼を困らせるだけのために二喬を寄越したからじゃないでしょうか?」
端正が白頭巾を睨み返した。…豪勢は『えっ困る?誰が?』みたいな顔できょとんとしている。
「……この来訪が意趣返しだとしたら、原因は卿にこそあるのではないか」
「ほう、興味深い。思わぬ貴婦人の来訪に大変に畏れ入り、楽師に琴を弾かせたまでですが、お二人の興を削ぐようなことを、私がいたしましたかねぇ…」
「そういう奴だ、卿は。だから今回の来訪が卿の云う通り意趣返しだとしたら『ターゲット』にされるのは卿だ。俺は一切、助けないからな」
……分かってきたような気がする。今日、この部屋を訪れるのが誰なのか。白頭巾は呑気に肩をすくめたりしているが、俺の記憶が確かなら20代そこそこの若さで呉を統治し『小覇王』の名を欲しいままにした歴戦の猛者だ。その奥方に恥をかかせたとあっては、償いに白頭巾の首くらいは要求されてもおかしくないだろう。…大丈夫かお前、少なくとも武闘派じゃない…だろうけど大丈夫か。バハムート喚ぶよなこいつ。
「……何か、聞こえてこないか」
端正が真っ先に襖を振り返った。…さすが美周郎、耳が早い。
「……妙に、リズミカルなお経のような」
白頭巾も興味深げに頭を上げた。…お前もう、猫ちぐらから出てくるな。
豪勢がいぶかしげに振り向いたその瞬間、襖がすらりと開いた。
「…
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