Side Story
少女怪盗と仮面の神父 27
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三角形に近い歪な形で暗闇に迫り出した崖先。
手を突いた場所が少しだけ砕けて、乾いた土塊が一つ二つと落ちていく。
自身も落下しそうになりつつ、試しに数十秒黙って耳を澄ませてみるが。
下から来るのは風の音ばかりで、土塊が水に落ちた音は返ってこない。
これは相当、高い。
「……すごい。すごいすごい！ 村の近くにこんな素敵な崖があったなんて知らなかった！ あ……いやでも、ここは遊び場じゃないし、気付かなくて当然か……でもでも！ 大森林の奥地にあるとか、ズルいよ！ 知ってたらもっと早く、昼間に来てたのにーっ！ こういうのなんて言うんだっけ？ 穴を突いて土竜を出す？ 違うな。燭台の灯りも真下は照らせない？」
眼上にはキラキラ輝く星と月。
眼前には遮蔽物が無い雄大な山間の空間。
眼下には黒く生い繁る無数の木々と、うねりながら斜面を降る長大な河。
海沿いではない点を除けば、どこをどう見ても、ミートリッテが焦がれてやまない心の聖地『崖』だ。
水気を纏ってひんやりした夜の風も、月光を受けてチラチラ光る水面も。
ここにある何もかもがミートリッテの感情を異様に昂らせ。
こんがらかった思考は、問答無用で吹っ飛ばされた。
「……ミートリッテさん？」
急変した彼女の様子に、アーレストが怪訝な顔で数歩近付く。
しかし。
今のミートリッテの頭には『崖』以外が入り込める隙間など存在しない。
うずうずと、わくわくと、ドキドキが湧き上がり。
景色を眺める表情は、至上の宝物を見つけた子供そのもの。
興奮のあまり、心なしか呼吸まで乱れているようだ。
アーレストが背後に立った途端ミートリッテはガバッと上半身を起こし、両腕を組んだりバタバタと羽ばたいてみたり、傍目に奇怪な挙動を始める。
「しかも！ 追い詰められた人間が飛び降りる舞台劇そのものじゃない？ この状況！ 追い詰められたっていうよりは拉致されて来たんだけど！ ん……？ 拉致された被害者が自分から飛び降りる話、ってあるのかな？ みんなに聴いた話だと、飛び降りるのが二人組の場合、大抵は恋人同士で、同時にポーンと行くんだよねえ。これが拉致犯と被害者の組み合わせだと、すったもんだの末に拉致犯だけがうっかり落ちて、被害者は追いかけてきた軍人や騎士に助けられて終わるし。……おおおおっ!? もしかしてこれは、名だたる劇話作家達も想像できなかった新しい展開!? 拉致犯の手を逃れ、自らの意思で一人崖下へ落ちる被害者……良いっ！」
「……あの……？」
「更に、拉致犯は軍人や騎士に捕まるんだけど、被害者は生存確認不可！ とかだと続編要望の気運が高まりそう。で、今度は優しい人に助けられたり単独で逃げ延びたりした被害者が拉
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