14部分:第十四首
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第十四首
第十四首 河原左大臣
何もしていない、やましいところなぞないというのに彼女は疑う。やましいところがあればどうして今こうして彼女の前にいるのか。そう思うだけで胸が張り裂けそうになる。
かつては何の色もなく白いだけだった自分の心を染めた人だというのに。それなのにどうして自分を疑うのか。それを思うと心の乱れを収められない。どうにかして収めようとしてもである。
今もこれ程乱れた心になってしまっているのはただひたすら恋焦がれているから。だからこそなのに。
黒髪も乱れに乱れ忍ぶ心もどうしようもなくなり。ただひたすら疑いの目と言葉に気持ちをかき乱される。
それに耐えられなくなり今遂におもむろに筆を取り。歌を書くのであった。
みちのくの 信夫もち摺り 誰故に 乱れそめにし 我ならなくに
一首書いてそれを彼女に贈る。そうして今自らも言うのだった。
「これが私の気持ちです」
悲しみを押し殺して言葉を告げる。何とか乱れに乱れているこの気持ちを抑えて。今言うのであった。
「それだけです」
これだけ言うとその場を後にする。そうして今は一人乱れに乱れた気持ちを抑えようと心を堪えている。堪えることもできそうにないけれど。嘆く心は黒髪と白布が乱れ飛ぶ様に。ただただ吹き荒れていた。彼の心の中に。
第十四首 完
2008・12・12
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