第十二話 孤独の者その二
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「王子を無事に育てるのだ」
「王冠を戴くのに相応しい方として」
「その様に頼む」
「わかりました」
これがマリーの返事だった。
「それでは」
「そなた達には国の未来がかかっているのだ」
それはこの国だけではなかった。
「四国のな、そのことゆめゆめ忘れることのないように」
「はい」
三人は同時にだ、王に答えた。そのうえで婚礼への用意をさらに進めていった。勿論養子を迎える用意もだ。
三人の姫には声をかけた王だった、だが。
マイラには一瞥もしなかった、それでだった。
旧教の諸侯達は彼等だけになった時にだ、顔を曇らせて話をした。
「マイラ様も王女だが」
「あの方にはだな」
「うむ、お声をかけられぬ」
「全くだ」
こう話すのだった。
「兄君のお子であり姫様であられるのに」
「そして王位継承権もお持ちだというのに」
「所詮妾の子というのか」
「そして旧教徒だからか」
「それでか」
「お声をかけられぬ」
「そうだというのか」
彼等の中で話すのだった、密室の中で。
「やはり旧教はないがしろにされるか」
「ひいては我等もか」
「この国では旧教はそうした扱いか」
「信教は認められていても」
「新教とは違う」
「それははっきりしているか」
「マイラ様に対する扱いといい」
「我等は所詮」
苦い顔で言うのだった。
「日陰者か」
「この国においては」
「あくまで主流は新教徒」
「この前まで旧教だけであったというのに」
「それが変わるとは」
「忌々しい」
「諸卿、それで宜しいですか」
ここでだ、一人の男が言った。見れば黒い口髭と顎髭、そして髪を奇麗に切り揃えた逞しい身体の長身の男だ。顔も引き締まっている。目の色も黒でその光は鋭く強い。眉も太い。
名をオズバルト公という、旧教の諸侯の中でも最も古い家で王妃を出したこともある。領地も広くその権勢はかなりのものだ。
そのオズバルト公がだ、旧教の諸侯達に問うたのだ。
「このままで」
「いえ、それは」
「そうである筈がありません」
「我等とて指を咥えて見てはいられません」
「到底です」
「だから何とかしたいと思っていますが」
「手が」
「打つ手はあります」
即座にだ、オズバルト公は彼等に言った。
「旧教の味方は旧教です」
「となると」
「教皇庁にですね」
「太子」
「そして帝国ですね」
「そうです、実は以前から太子からお声を頂いていまして」
マイラの夫である彼からというのだ。
「それで、です」
「オズバルト公と太子はですか」
「既に懇意である」
「そうなのですね」
「はい」
その通りという返事だった。
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