第6章 流されて異界
第149話 告白。あるいは告解
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ふと視線を上げると、其処には月と星明かりに照らされた、深く、果てしない世界を見渡す事が出来た。
日が落ちてから既に数時間。しかし、現状すべての穢れを祓われ澄み切った大気を有するこの高坂の地。更に強い光輝を放つ蒼き月と、数多の星々に照らし出された今宵の氷空は、黒ではなく、濃い藍と表現すべき色を湛えている。
冬の夜としては奇跡的と言っても良いぐらいに風のない夜。もうもうと立ち込める白い湯気。その世界の中心で、約二メートルの距離を持って対峙する二人。
共に何も身に纏う事もなく――
「あなたに謝らなければならないのは――」
美しい少女……と言うべきか。何時もの銀が存在していないその容貌は、普段よりもやや幼く感じる物の、それでも少し鋭角で冷たい印象の美貌。妙に作り物めいた容貌を俺に向けていた。
その小さなくちびるから発せられた銀の鈴の如き澄み渡った声。何時も通りの囁くようなレベルの小さな声は、しかし、何故か俺の耳にまで明瞭に届き、そのまま心の奥底へと浸み込んで行く。
彼女に対する想いと、ままならない現状に視線を少し外して終った俺。
対して、真摯に俺を見つめ続ける有希。その瞳は僅かに潤みながらも、視線を逸らそうとはしない。
「確かにわたしは、取っては成らない相手の手を取って終った」
何時の間にか女風呂の方から聞こえて来ていた声や、水音。そして、強く感じて居た人の気配すら消え、この広い露天風呂に存在するのは俺と有希。ふたりだけしか存在しない世界のように感じられるようになっていた。
その、ただ静かなだけの空間に、普段通り、少しだけ表情に乏しい……女性としてはやや低いトーンの彼女の声が響き続けていた。
「あなたを召喚する目的はただひとつ。それは、警告されたあなたの死を回避する。それさえ叶えられたのなら、あなたを直ぐに元の世界へと送り届ける」
最初はその心算だった。
小さく閉じた二人だけの世界。其処に微かに反響する彼女の声だけが現実。その他……一糸纏わぬ彼女も、そして、同じようにただ立ち尽くすだけの俺もすべて夢の中の出来事の様。
でも……と、そう小さく呟いた後、
「あの時……。わたしの腕の中にあなたが倒れ込んで来た瞬間――
もう二度と離したくない。そう考えて終った。感じて終った」
もしも、今の有希の声を俺以外の他者が聞いたとしても、其処に感情の起伏を発見する事は難しいかも知れない。それぐらいただ淡々と、まるで明日の仕事の予定を告げて来る秘書の如き雰囲気と声、……としか感じられないと思う。
……おそらく、これが謝罪の言葉だとは感じないでしょう。今現在、彼女の発して居る気配を感じられない普通の人間では。
しかし――
小さく肩を竦めて見
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