第45話
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男の怒号が響いた頃、その怒りの対象である袁陽軍の軍中で、一人の童女が項垂れていた。
「はぁ〜、とっても憂鬱なのです……」
音々音だ。未熟ではあるが常に懸命な彼女が、此処までやる気が出ないのは珍しい。
「……ねね」
「! 『恐れず、且つ油断するな』です!!」
「わかっているなら実践なさい!」
「は、はいです!」
そんな音々音を叱ったのは、お目付け役として付いて来た桂花だ。
「……」
とは言え、音々音の気持ちもわからんでもない。
今回の戦に用意された兵力は騎兵千騎。そう、重装騎兵隊“大炎”である。
数だけ見れば少数だが、正規軍十万に相当するとまで言われいる、袁陽が誇る武の結晶だ。
今回の相手は正規軍とはいえ、たかが一万。役不足もいい所である。
……恋が追従していない事も、やる気が削がれている一因だろう。
「ほら、敵軍が見えたわよ。精々派手に歓迎して、私達に刃を向けたことを後悔させなさい」
「はいです、出陣!」
『応!』
音々音の言葉に呼応して千の黒炎が動き出す。その馬脚が踏み鳴らす音は、とてもではないが千騎が出すような音ではなかった。
音々音達の背を見送った後、桂花は後方に設置した物見の高台から全体を見渡していた。
今回、恋を欠いた大炎と音々音が迎撃に抜擢されたのには勿論理由がある。
敵軍の撃退は二の次、真の狙いは音々音が考案した新戦術の実験だ。
「いよいよですな」
「キャッ!?」
戦地を見渡していた桂花の背後から、聞きなれた声が届く。
星だ。桂花と同じく今回の戦場へ追従してきた彼女が、いつの間にか背後に立っている。
少し話が逸れるが、桂花は袁陽の中でも重要な人材である。
その才は政務だけに留まらず、財政、軍事と、袁陽のあらゆる分野を担っているため。
国としてだけでなく、袁紹個人からの依存度も高い。
彼女がいなければ今頃、袁紹は書簡の山に埋もれていただろう。
それほどの重要人物であるだけに、桂花の護衛には一般兵士とは比べ物にならない精鋭が付いている。
現在も。彼女が居る高台を中心に厳重な見張りが張り巡らされていた。
そんな文字通り蟻の入る隙間も無い中、星は音も無く桂花に忍び寄ったのだ。
「ちょっと星。味方なんだから正面から堂々と来なさいよ!」
「はっはっは、それでは面白み――あ、いや。護衛共の訓練になるまい」
「……」
ちらりと護衛に目を向けると、彼らはバツが悪そうに目を逸らした。
その様子に桂花は溜息を洩らす。別に失望したわけではない、彼らには何度も刺客から命を救ってもらっている。その働きぶりからしても護衛達の
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