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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十四話 居場所
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ラスにそれを注ぐ。

「俺は卿が嫌いだ」
「……」
一瞬だがボトルと俺のグラスが音を立てた。何事もないように注ぎ終えボトルをテーブルに置く。ボトルには未だ三分の一程度残っていた。

“俺は卿が嫌いだ” 気負いのない声だった。嫌悪も憎悪も感じられなかった。目の前のオフレッサーを見ても特に敵意は感じられない。無心にシュラハトプラットを食べているように見える。本当に嫌いだといったのだろうか?

「卿は俺に無い物を持っている。俺はトマホークを持って戦うことしか出来ん、人殺ししか能のない男だ。だが卿は違う、卿は自ら戦う事も兵を指揮する事も出来る男だ。会った時から嫌いになった、憎かった」
「……」

「第六次イゼルローン要塞攻防戦で益々卿が嫌いになった。卿が能力だけではなく、主人にも恵まれていると分かったからだ。あの男、俺やミュッケンベルガー元帥を前にしても少しも怯まなかった、小童が」
「……」

あの時の事は今でも憶えている。いや、一生忘れる事はないだろう。もう少しで切り捨てられる所だった。同盟でも帝国でも居場所が無い事を思い知らされた瞬間。それをヴァレンシュタインが救ってくれた……。

「リューネブルク中将、ヴァレンシュタイン元帥は良い主人か?」
「はい」
「卿の命を懸けられるか?」
オフレッサーがこちらを見てくる。見据えるというような強い視線だ。

「懸けられます」
「そうか……。俺には命を懸けられる相手が居なかった。やはり俺は卿が嫌いだ」
そう言うとオフレッサーは苦笑して、ワインを一口飲んだ。

「卿は装甲擲弾兵総監になりたいか?」
また唐突な問いだ。どう答えるかと考えたが正直に答えることにした。
「……なりたいと思います」
「正直だな」

「閣下の前で嘘を吐こうとは思いません」
俺の言葉に微かにオフレッサーが笑った。厭な笑いではなかった。
「装甲擲弾兵には臆病者はおらん、勇者だけだ。総監ともなれば勇者の中の勇者だが卿になら務まるだろう……」
「……」

「新しい帝国が出来れば卿が、今の帝国が続くのであれば俺が装甲擲弾兵総監として勇者を率いるというわけだ。楽しみだな」
「そうですな」
どちらからともなくグラスを掲げた。一息でワインを飲み干す。

内乱が起きればオフレッサーは貴族連合に与する。この男が敵に回れば手強い。白兵戦、一対一ではこの男に勝てないのは分かっている。何らかの策を巡らす必要があるだろう。俺は目の前の筋肉に包まれた男を見ながらどう戦うかを考えていた……。






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