第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
14話 咎人問答
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るなど予想だにしなかった。
しかし、こうも真正面から来られたのだ。いかな俺とてぞんざいに扱う気にはなれない。
グリムロックの問いに、俺自身の価値観を返す。
これまでの浮遊城で培った価値観や、経験の集大成。
俺という人間の、あまりにも一般の倫理と道徳観からかけ離れた行動規範。
眼前の男の心にどう響くのか、情報収集という目的さえ度外視した行動であったが、しかしながらグリムロックは意外な姿を見せていた。
あれほどに哄笑を響かせていた酷薄な男の表情には嗜虐や愉悦の色は何処かへと失せ、萎えた膝は石畳を打ち、毒の抜けたような呆けた顔に涙が伝う。
心が折れた、というべきか。それまで、自身の孤独と罪悪を必死に否定していた男の敗北。
剣を取ることを選んだ俺を前にした、剣を取れなかった者が覚える痛感。
逃げ場を失って負の感情の圧力に押しつぶされそうな、感情さえ湧きあがることを諦めるほどの苦痛は、よもや自己さえ忘失してしまうのではないかと危惧してしまいかねない。だが、グリムロックは掠れるような声で、呻くように言葉を紡ぐ。
「………私も、少しだけ勇気を出していれば君のように戦えただろうか?」
「無責任な発言はしたくないが、もしかしたらこうはならなかったかも知れない」
「………無理だ、とは言わないのだね」
「前評判だけは良かった。親友の言葉だ。無下にはしない」
「……………そうか」
再び、沈黙が周囲を飲み込んだ。
グリムロックも項垂れて微動だにしない。どうやら、感情的になり過ぎて肝心な情報を得られなくなってしまったらしい。
ここにいても何もならないと判断し、踵を返しては来た道を再びなぞるべく足を踏み出す。
「………君が、どうして《彼等》の本拠地を目指すのか、私には理解できないし、知ったところで実利など望めるべくもないだろう。だが、君の選択と、その行く末に一石を投じてみるのも面白い」
「何が言いたい?」
沈黙を破って、グリムロックは俯いた格好もそのままに呟きを零す。
「………生命の碑だ。彼女は………《柩の魔女》は、この上に現れる。私は彼女を橋渡しに遣り取りを行っていた。この情報を君に託す。これを以てどう動くか、楽しみだよ」
突如として、全身が総毛立つ。
因縁の敵ともいうべき相手の情報を得たことで、半ば思考が停止した状態で身体だけを動かした。
石畳を蹴り、グリムロックをそのまま置き去りに監獄を駆け抜けた。
あくまでも情報収集のつもりでここを訪れたというのに、まさか自分の狙いに図らずも迫っていたとは、もはや驚愕さえ通り過ぎてしまう。
ここまでお膳立てが整ったのだ。或いは、この瞬間にもあの女が生
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