第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
14話 咎人問答
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ない。救いようがないくらい、掛け値なしの大馬鹿だ」
「黙れェェェェェ!!」
牢獄の奥に佇んでいた痩躯は猛然と歩み出ては鉄格子に掴みかかり、恨みがましく俺に視線を向けてくる。空虚な苦笑も、自嘲もない。あるのはひたすらに俺への憎悪だけ。突然沸き上がった、黒々と濁った感情のみ。息を荒げ、燭台の灯から受けた光を爛々と返す双眸は殺意さえ満ちていたくらいだ。
「お前に、私の何が解る!? 私のこの悲愴を侮辱する権利があるというのか!!?」
「だから言っただろう、他人事だから俺には分からないってな。あくまで他人なりの客観的な意見だよ………だが、それでもだ」
鉄格子に歩み寄り、グリムロックの襟を握って顔を引き下げた。
視線の高さを無理矢理合わせて、感情を剥き出しにした瞳を覗き込む。
「俺に牙を剥くのはお門違いじゃないのか。自分の身から出た錆だ。きっちり始末を付けて、罪を償ってみせろ」
「始末だと? 今さら、こんな私に何が出来るというのだね!? 何を以て始末を付けると言うのか、罪を償えというのか、それこそ説明して欲しいものだ!」
怒声が格子を擦り抜ける。その文言の中に、ようやく聞きたかった言葉を聞いた俺は内心で口角を吊り上げた。
「簡単な話だ。他人に殺されるような、下らない死に方をするプレイヤーを根本的に減らしさえすればいい。アンタが肩を持っている相手の情報を俺に流せば十分だ」
「………君に話したところで、何になる?」
「少なくとも、アンタはPKによる犠牲者を減らすために尽力した密告者になるわけだ。どのみち、正義の味方になんぞ為れはしないだろうが、卑怯者の汚名は雪げるだろうさ」
「フフ、フハハ……! 面白いジョークだ! では、何かね? そこまで聞き出すからには、君が《笑う棺桶》の本拠地に乗り込んで、彼等を皆殺しにするとでも言うのかね!!? そうして、妻の仇を君が取ってくれるのか!!?」
言い終えても哄笑の余韻に肩を震わせるグリムロックから手を離す。
驚くほど感情の起伏を失いながら、しかし記憶はある一部始終を想起した。
多くの悲鳴、怒号、断末魔。そして孤立した後に苦痛を伴って責め立てる静寂。
その後の絶望を、俺は多くの人間に支えられて乗り越えた。
だが、この男、加害者になってしまったグリムロックには縋るべき相手が誰も居なかった。
ただ、殺してしまった苦痛に苛まれるしかない彼は、ともすれば《こうなったかも知れない俺の末路》にさえ見えてならない。
誰にも助けを求められず、誰にも手を差し伸べられず、差し伸べられた手にさえ気づくことさえ出来ないまま心が病み果てる。
所詮は他人だ。だから、彼の痛みも他人事だ。
それは、彼から見ての俺もまた同じものだったのかも
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