第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
14話 咎人問答
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アインクラッドの底の底。
百層にもなる箱庭の基底部。冷たい鋼鉄の受け皿の底は、まだ第一層の主街区でさえ輝いているように錯覚してしまえるほどに淀んでいる。
プレイヤーの身では破壊することの叶わない金属質の格子。
物理的な変化の起こり得る現実世界の牢獄とは異なり、完全に外界から隔絶された空間に捕らえられた彼等は、得てして外側の騒音や光景に鈍感になるものらしい。
何を期待する事も出来ないからか誰もが俺に無関心で、故に獄中で静寂に身を任せ、時間を過ごすのみ。牢獄全体の沈黙は即ち、彼等の諦念に他ならない。自らの業によるものか、運の縺れか、その経緯に拘わらず、奇しくも誰もが平等に沈黙に身を委ねていた。
「アンタが知る限りでのPKとの接点について聞かせて貰いたい」
雑音のない空間は音が良く通る。
一言一句乱れることなく空気を伝播した問いかけは、しかし彼から返答を齎すことはなかった。頭を垂れ、上体を屈めるように曲げたグリムロックは肩を震わせながら上擦った声と吐息を漏らす。
――――彼は、滑稽な何かを嘲るように、嗤ったのだ。
「………フフ、今………君は何と言ったのかな?」
前述の通り、音は俺の問いのみ。グリムロックの耳朶を遮るものは何もなかった。
それでも彼は問い返せずにはいられなかったのだろう。真っ当な返答が向けられる公算など求めるべくもない、口に出す前に棄却されるべき文言を言い放った俺に、恐らくは何らかの感情を持ったことだろう。
「レッドプレイヤーと接触する手段、把握する全てを聞かせろと言ったんだ」
「………ほう、これはこれは。随分と物騒な質問だ。前途有望な若者だと思っていたものだから、まんまと聞き違いを疑ってしまったよ」
「買い被りだ。その手の評価はアンタの化けの皮を剥がし遂せたヤツにでもくれてやるんだな」
「ふむ、随分と奥ゆかしい性格をしているのだね。それはそれで好ましいが………しかし、生憎と君の質問には答える事が出来ない。そもそも、答える義理もないのでね」
会話自体には拒絶の意思は見えなかったものの、すげなく断られる。
吊り上がった口角は愉悦に染まって、場のイニシアチブを握る優越感を漂わせた。
「どのみち、私には君に情報を提供したところで実利を得られることはないだろう。こんなアンフェアな問答に付き合う道理こそ私にはない。せめて、欲するモノに対する対価を用意するべきだったね。………もっとも、今の私には何を差し出そうとも無意味なのだろうが」
苦笑を漏らし、高説は幕を下ろす。
報酬には対価を。確かに言わんとすることは極めて単純で建設的な、理に適った意見だ。
しかし、どうあれグリムロックは俺にレッドプレイヤーについての情報を
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