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約1つのラベルと心臓
第n+5話 目玉焼きのどろどろ踊り
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「ん?」
 一応、網の上にあった肉は全てタレに沈んでいる。
『肉は稀に世に憚られる存在。しかし今は文字通り傍若無人でいていいのです』
「文字通りなのか?」
 夏雄がそうぼんやり思ったところで、夏雄はスッと違和感を覚えた。
 何か、音がする。
 音というより声だ。それは厨房の方から聞こえる。
「誰かいるのか?」
 気になった夏雄は立ち上がり、席を発って厨房に歩いた。
 時間が経ち、夏雄が近づいたことで、声はどんどん強くなる。子供のような高い声。複数いて、何かを歌っているようだった。
「あんせるべんしゃん、ぱうせるかんしゃん、わうえるとんしゃん」
 その言葉は万能翻訳機でも翻訳が出来なかった。
「何者だよ……」
 ここの店員なのかすら怪しい。
「あの!」
 取り敢えず声をかけるが、反応も無いし歌も止まらない。
「……」
 夏雄は『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた厨房の扉をノックした。
 反応はやはり無い。
「てーけるるんしゃん、かーせるごんしゃん、みないせるべすいんしゃん」
 歌も止まる気配を見せない。
「失礼します!」
 夏雄がゆっくりと立入禁止の扉を開けるとその中では、
 牛肉達が盆踊りをしていた。
「どーめるこんしゃん、こーめるとんしゃん、かみえるぷんしゃん」
 いや実際に盆踊りなのかは定かではないが、中央で音の聞こえない太鼓を叩く肉の音頭に合わせて、それを円で囲うように様々な部位の肉達が歌い踊っていた。
「なんだこれ……」
 夏雄は反応に困った。
 それから呆然とそれを眺めていると、数分後に踊りの輪から数個の肉がそそと離れた。
「「ぴげびうま」」
 それらは輪の方に一礼をすると厨房と客席の間の扉にズプズプとめり込んだ。
「え?は?」
 夏雄はわけの分からないまま扉を開けてそれらを追いかけた。
 様々な部位(ホルモンだけ分かった)はのそのそ小さい歩幅で歩んでいる。
「どこに向かってんだ……」
 夏雄は肉の集まりの後ろをゆっくりついていく。
 そしてその行き先を推察する為に視野を上に広げると、夏雄は疑惑に目を細めた。
「俺の、とこ?」
 夏雄の予想が当たり、肉達は夏雄のテーブルの前で立ち止まった。
 そして少しの静寂の後、
 やつらは焼けている網の上に飛び込んだ。
「はぁ!?」
 夏雄が駆け寄りジッと凝視している間に、さっきまで歌っていた肉達は何も言わずに良い焼き色を付けていく。
「……」
 気味悪さを感じながら倒れるようにソファに座ると、美都子が書いた紙束が目につく。
「なんか書いてねぇかぁ?」
 何が書いてあればいいか分からないままページをめくると、先程読んだところの次に目を移す。
『この世界では最近、肉体に精神が付随するようになり肉だけでも動くようになり
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