プロローグ
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、何か記憶の奥底に引っ掛かるような気がしたが、ぼんやりとしたイメージが浮かぶだけで、具体的な物は何一つ分からない。
「………紅?」
何故か浮かんだ色の名前を口にすると、隣から呆れたような声が投げられた。
「大丈夫か?寝起きの第一声がそれで。」
「……気にしないで、峰雲君。こっちの話よ。」
そう不機嫌そうに答えてから、雫は呆れ声の主にして、自分を起こした張本人の少年―――峰雲霄の方を向いた。いつも通りの何処か達観したような、食えない表情をしている。雫はこの少年があまり好きではなかった。何を考えているのかさっぱり読めない癖に、こっちの考えは全て見透かされている気がするのだ。
雫の考えすぎかもしれないが、それでも何か嫌だという奇妙な感覚は消えなかった。
「何の用?」
「いや、もう下校時刻だせ?」
霄の言葉にチラッと時計を見ると、既に六時に迫っていた。ここ、県立幽月南高校では、部活動を除き、生徒は六時までに下校する決まりだ。そんなにも寝ていたのか、と、若干の驚きを抱く。
「しかし授業中でも無いのに机で寝てるなんてな。何か有ったのか?」
「別に、何も。」
雫はそうは言ったが、眠ってしまう直前の記憶がひどく曖昧な事に気が付いた。しかし、疲れが出たのだろうと自分を納得させる事にした。
「じゃあ、私はこれで。」
帰ろうとする雫を、しかし霄が引き留めた。
「送ってく。最近物騒だしな。」
霄が言っているのは、最近幽月市で起こっている連続通り魔事件だろう。夕方から夜にかけて、人気のない道を歩いていた人が次々と襲われ、今日までに3人が亡くなっている。学校でも対策を練ったようで、明日から暫く休校になるようだ。
被害者は皆、四肢を引き千切られた上に、メッタ刺しにされるという常軌を逸した方法で殺害されているという。しかし、
「………要らない。」
雫は断った。この男の事だから恋愛感情は一切無いだろうが、嫌っている相手にわざわざ送ってもらうこともなかった。
「そっか。」
しかし、霄は慌てない。彼には秘策があった。
「じゃあいいや。黙って後ろを付いてくから。」
「…………………。」
雫にとってみれば、そっちの方が百倍不気味だった。同時にやっぱり嫌だと思った。峰雲霄という男は、雫がこう言えば断らないと分かっていたのだ。やはり、見透かされている気がしてならなかった。
「……分かったわ。勝手にして。」
その言葉を聞いても、霄は特に喜びも何もせず、ただバックを持って、「行こう。」と短く言っただけだった。
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