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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十二話 ヴェストパーレ男爵夫人
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ないと思います。しかしローエングラム伯には貴女の力が必要です。力になってあげてください」
そう言うと司令長官はヒルダに対して頭を下げた。
ジークがワルトハイム参謀長と話をしている。トゥルナイゼン少将はジークとは幼年学校での同期生らしい、先程そんなことを話していた。これから彼はどうするのだろう。ラインハルトへの忠誠心を胸に秘めつつ司令長官の幕僚を務めるのだろうか。
結局私は応接室での出来事をラインハルトにもジークにも話さなかった。あの時の司令長官の冷たく厳しい視線、私は何故自分が応接室に呼ばれたのか、ようやく理解した。
司令長官はラインハルトを場合によっては切り捨てる覚悟を決めている。出来る限り支援はしよう、しかし失敗すれば切り捨てる。それが司令長官のラインハルトに対する姿勢だ。そのことを私に告げたのだ。
ジークフリード・キルヒアイスが此処に来ても必要以上に馴れ合うな、今後何が有っても口出しは無用だと言っている。
厳しい態度だ。しかし、ジークと親しくなれば万一ラインハルトが切り捨てられた場合、私も厄介な立場になるだろう。確かに必要以上に親しくは出来ない。
彼が私に微かに目礼してくる。先程の礼だろうか? そんな彼を見ながら私は微かに罪悪感に襲われた。
ジーク、私に出来る事はここまでよ、後は自分で何とかしなさい。此処に来た以上、そのくらいの覚悟はあるでしょう。私を頼るようなら、情け容赦なく突き放してあげる……。
帝国暦 487年10月27日 オーディン 宇宙艦隊司令部 テオドール・ルックナー
ヴァレンシュタイン司令長官より呼び出しがかかった。呼び出されたのは俺の他にシュムーデ大将、リンテレン大将、ルーディッゲ大将。かつて司令長官の下で副司令官と分艦隊司令官として仕事をした仲間だ。
シャンタウ星域の会戦後、俺達は大将に昇進しそれぞれ一万隻の艦隊を率いる司令官となった。宇宙艦隊の正規艦隊司令官になれなかったのは残念だが、正規艦隊の司令官枠は十八個しかない。
俺達が正規艦隊の司令官になれば誰かが溢れる事になる。それに俺達は司令長官配下の分艦隊司令官だった。俺達を正規艦隊司令官にすれば司令長官の人事を贔屓だと不満を持つ人間も出るだろう。今のままでも十分俺達は評価されている、不満はない。
いや、本当は不満は有る。いずれ起きる内乱において俺達の役割が決まっていないことだ。正規艦隊は役割が決まっているにもかかわらず俺達には何も指示が無い。予備として扱われるのか、或いは留守部隊として扱われるのか、どちらもごめんだ。不安だけが募る。
ここ最近、俺達は集まればその話で終始する毎日だった。だが、それもようやく終わる。司令長官からの呼び出しはきっと次の内乱での俺達の任務についてだろう。
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