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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
54.第四地獄・奈落底界
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を打ち切って黒竜の話に頭を戻した。

 ずいぶん脱線したが、つまりミリオンが疑問に思ったことは一つだ。

「あれだけバクバク魔石食ってたらもっと外見にハデな変化が出てもおかしくないと思うんっすけどね………見た感じ、古代の目撃例も現代の外見も全然変化がないのはなんでっすか?いくらダンジョンから直接的な恩恵を受けていないからって、あの量の魔石を平らげれば絶対に体の維持を引いても余剰エネルギーが体を変異させる筈っすよね?」

 余剰エネルギーは、いったいどこへ行ったのだろう。
 そして、そのエネルギーは何に使われるのだろう。
 結局その疑問は解消されることなく、彼女は小さな引っ掛かりを覚えたまま魔力回復ポーションを呷って監視を続行した。

 その後、煮詰まった彼女の疑問を聞いたロイマンが最悪の予測を弾き出すまで、数日を要した。

 そしてその予測は、奇しくも現在溶岩の蛹を破る黒い怪物を観察するオーネストと全く同じものだった。



 = =


 
 巨大な溶岩のゆりかごを破り這い出てきたのは、確かな質感を持った実体だった。腕は地面を叩き、這いずるように蠢きながら溶岩の内よりもう一方の巨腕を引きずり出す。滴る溶岩を飛び散らせながら巨大な物体が這い出てくる光景は、どうしてかグロテスクで圧倒的な光景に思えた。

 リージュがその異様さに圧倒されて唾を飲み込む。ユグーは反対に神々しく神秘的な瞬間を見つめるかのように恍惚の表情で涎を垂らす。そして俺ことアズラーイルは――押し寄せる「生命」の鼓動を浴びて、手が震えていた。武者震いか、恐怖か、歓喜か、どれとも判別のつかない曖昧で感覚的な衝動が全身を支配していた。

 生とは死と等価値だ。しかしあれは、あの塊から発せられる凶悪なまでの生命の鼓動は、死を押しのけて生を貫く生命賛美に満ち溢れている。死を迎えることでも永遠の束縛を彷徨うのでもなく、ただ前を見て力尽きるまで進み続ける愚直な意志。それは、ある意味で俺とは正反対の波動だったのかもしれない。
 と、沈黙を引き裂くようにオーネストが口を開く。

「蝶は幼虫から蛹の姿になる際、成虫になる際に再利用できない器官が液状化して肉体の大部分が命のスープになる。そして更なる時間をかけて自身の体を再構成し、成虫になる。あいつがやったのは恐らくそれと似た事だ。この周辺の階層で魔物を喰らい、貯め込んだ魔石のエネルギーを使って自分の体を再構成したんだろう」
「完全変態だっけ、確か。若かりし頃の俺は想像を絶する変質者の事だと信じて疑わなかったよ」
「それ以上おちゃらけて俺に無駄な時間を使わせるつもりならお前の顔面を完全変態させてやろう。心配するな、今よりいい顔にしてやる。脳みその方は溶けてしまうかもしれないがな」
「………すまん、静聴するか
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