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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十話 真意
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ヒテンラーデ侯は表情を歪ませている。そして元帥は微かに笑みを浮かべている。そして柔らかい口調で話し始めた。

「困るのですよ、自由惑星同盟の人間が帝国の統治に不安を覚えるような皇帝は。暴君など宇宙の統一にとっては障害でしかない。そうは思いませんか?」
穏やかな笑み、穏やかな口調だ、しかし眼は笑っていない、冷たい色を湛えている。

「……」
「これまでは、皇族であれば、皇位継承権を持っていれば皇帝になれました。たとえ凡庸でもです。しかしこれからは皇帝としての資質の有無こそが皇帝即位への条件になるでしょう。それくらいこれからの帝国の統治にはデリケートさが必要になります」

十年後、十五年後と言えば、殿下はそろそろ帝国の統治に関わっても可笑しくは無い年齢になる。つまりエルウィン・ヨーゼフ殿下には帝国の統治は無理だと二人は考えている。

その二人にとってフレーゲル男爵からの提案は渡りに船だった。だからブラウンシュバイク、リッテンハイム両夫人、両令嬢を受け取り領地替えを提示した、そういうことだろうか?

「フレーゲル男爵はエルウィン・ヨーゼフ殿下を大分詳しく調べたようだの」
「調べた? 殿下をですか?」
つまり、フレーゲル男爵も殿下には皇帝としての資質が無いと判断したということか。

「当然でしょう、競争相手ですからね」
「競争相手、ですか?」
ヴァレンシュタイン元帥は軽く頷いて言葉を続けた。

「ええ、エリザベート・フォン・ブラウンシュバイクが女帝になれば、フレーゲル男爵は新たなブラウンシュバイク公となりました。上手く行けば女帝夫君として帝国に君臨する事も出来たでしょう」
「……」

「サビーネ・フォン・リッテンハイムが女帝になってもそれは同じです。エリザベートと結婚するか、あるいはエリザベートにはリッテンハイム侯の近親者を配偶者に選び自分はサビーネの夫になる。それが可能だと考えたようですね。彼にとって邪魔なのはエルウィン・ヨーゼフ殿下だけだった……」

「フレーゲル男爵は殿下を調べ、皇帝になる器量は無い、そう考えた……」
「そうじゃろうの、だから舞い上がり、ヴァレンシュタイン元帥に押さえつけられた……。皮肉なものよ……」

リヒテンラーデ侯はヴァレンシュタイン元帥に目をやりながら何処か感慨深げに呟いた。在りし日のフレーゲル男爵を思い出しているのかもしれない。

「しかし、よろしいのですか? 場合によってはまた外戚が力を振るうことになりかねませんが」

エリザベート、サビーネ、この二人が女帝として登極すればブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯が外戚として力を振るうことになる。その事は考えないのだろうか?

「辺境に領地替えをすれば両家とも体力を失います、それに彼らを担ぐ貴族達はもう直ぐ滅びますから
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