第六章
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「お酒がですか」
「そうだ。ワインなら全く酔わない」
そうだというのだ。自信に満ちた声で。
「絶対にな」
「ワインならですか」
「ロシアではいつもウォッカだった」
ロシア名物とも言っていいだ。その酒をだというのだ。
「それこそワインと比べるとな」
「ああ、ウォッカなら」
「ウォッカのことは知っているね」
「あれはもうアルコールですよ」
そこまで達しているとだ。テノール歌手は驚いた様な顔でシャリアピンに答えた。
「そうそう飲めたものじゃないですよ」
「しかし私は。ロシア人はいつも飲んでいるからな」
「だからですか」
「ワインでは酔わない」
それこそだ。幾ら飲んでもだというのだ。
「全くな。それでどうということはなかった」
「そうだったんですか」
「向こうも馬鹿だ。酒で私には勝てないよ」
楽しげな笑みさえ浮かべながらだ。シャリアピンは言った。そしてだ。
そのワインをまた一口飲んでだ。マネージャーに言った。
「また一本飲むか」
「そうですね。では」
「ワインは美味いのだがな」
それでもだとだ。シャリアピンは苦笑いで言ったのだった。
「しかしどうしてもな」
「そうですね。弱いですよね」
「水を飲んでいる感じだな」
彼にしてみればだ。そうだというのだ。そしてそれはマネージャーにしても同じだった。
それで二人で少しぼやきながらワインを飲んでいく。その二人を見てだ。
テノール歌手は唸りながらだ。こう言うのだった。
「お酒でも貴方には勝てないみたいですね」
「酒でも?」
「はい。歌でも舞台の姿でも人格でも」
そうしただ。あらゆるものでだと述べてからだった。
「脱帽しましたしそれに」
「その酒でもか」
「参りました。ですがそれでも」
シャリアピンのその泰然とした顔を見つつだ。そのうえでの言葉だった。
「貴方を目指しますよ。絶対にな」
「私はバスで君はテノールでまた違うが」
「それでもです。目指させてもらいます」
微笑んでだ。シャリアピンに言ったのだった。
この若い歌手は後に世界的なテノールとなってその名を残る。ベニャミーノ=ジーリの若き日の話だ。だが彼とシャリアピンのこの話を知る者は少ない。だが面白い話であるのでここに紹介したい。二人の偉大な名歌手の逸話を。
舞台裏 完
2012・3・2
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