巻ノ五十四 昔の誼その十三
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「それは絶対にない」
「そうですか」
「うむ、だから皆長く生きて欲しい」
母親も秀長も我が子もというのだ。
「皆な」
「全くですね」
「誰もがな、しかし人はわからぬ」
今度は瞑目する様な顔になってだ、こうも言った秀吉だった。
「何時死ぬか、それが心配じゃ」
「ですからそう言われると」
「わかっておる、ではな」
「それはお止めになって」
「飲むか」
「肴はどうしますか」
「それは簡単でよい」
笑顔に戻ってだ、秀吉はねねに返した。
「今日はな」
「では干し魚を」
「煮干じゃな、あるか」
「はい、これからお出しします」
「昔はその煮干もな」
「贅沢でしたね」
「ははは、足軽だった頃はな」
秀吉はまたその頃のことを話した。
「とてもだったな」
「煮干がない時も多く」
「そしてでしたね」
「しかし今は煮干も食える」
それもというのだ。
「それも何時でもな」
「有り難いことですね」
「全くだ」
こうも言ったのだった。
「これ以上満足すべきことはない」
「そうですね、挽き米も」
「それもじゃ」
秀吉の好物であるそれもというのだ。
「何時でも食える、それでわしは満足しておるところもある」
「そうですね、私も」
「そうじゃな、しかしな」
「はい、天下を手に入れられれば」
「わしはこのままでよいが」
「お母上が」
「もっとよい暮らしも出来るしのう、何よりも天下が泰平になり」
そしてというのだ。
「誰もが穏やかに暮らせる」
「そうした世になりますね」
「そして笑顔が増える」
泰平になって穏やかな世になればというのだ。
「わしは人の笑顔が大好きじゃ、天下の笑顔を見る為にも」
「是非共」
「一つにするぞ」
「わかりました、では」
「うむ、また戦になるだろうが」
「行ってらっしゃいませ」
ねねは夫に煮干も差し出しつつ応えた、秀吉はその煮干も食べながらだった。酒を楽しみこの日は彼女と共に過ごしたのだった。
巻ノ五十四 完
2016・4・19
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