巻ノ五十四 昔の誼その十二
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「ずっと共にいて欲しい」
「では」
「薬を差し入れるか」
腕を組んでだ、秀吉は言った。
「そうするか」
「高麗から取り寄せた人参よ」
「ああ、今は朝鮮というぞ」
「高麗ではなくですか」
「あの国は名前が変わった」
「高麗ではなく」
「もう何百年も前に変わっておった」
高麗からというのだ。
「そうなった」
「そうでしたか」
「しかし。人参じゃな」
「あの薬の方の」
普通に食べているそれでなく、というのだ。
「あの人参を差し入れますか」
「これまで何本も差し入れておるがな」
「この度もですか」
「そうするか、あとな」
秀吉はさらに言った。
「捨丸はこれからもな」
「大事にされますか」
「うむ」
その通りにするというのだった。
「若し捨丸がおらぬと」
「跡を継ぐのは」
「おらぬ、いや」
「はい、治兵衛殿がおられます」
秀次の名をだ、ねねは出した。
「あの方が」
「そうじゃな、わしにはあ奴もおる」
「ですから」
「小竹もそう言っておる」
「若しもの時は」
「あ奴が跡を継ぐべきとな」
「ですから」
それでというのだ。
「不安にならないことです」
「そうじゃな」
「それに捨丸殿も」
彼のこともだ、ねねは秀吉に話した。
「お元気ではありませぬか」
「それはその通りじゃ」
「ではお悩みにならずに」
「このままじゃな」
「はい、天下を歩まれて下さい」
「これまでそうであった様にな」
秀吉はねねのその言葉に頷いた、そしてだった。
そのうえでだ、彼は妻にもこう言ったのだった。
「御主とずっと一緒じゃったな」
「そうでしたね、ずっと」
「御主と一緒になった時は」
お互いに若かった時のこともだ、秀吉は笑って話した。
「粗末な家に住んでおったな」
「尾張の長屋の」
「足軽が住むな」
「そうでした、ですが」
「それでもじゃな」
「とんとん拍子に出世して」
「今では関白じゃ」
笑って自分から言った。
「それも御主や小竹達がいてこそじゃ」
「そう言われますか」
「わし一人でここまでなるか」
絶対に、という言葉だった。
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