=入試編= シンロセレクト
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る。無論ゼロというわけではないが、一般的に好まれないものなのだから当然剣道の道を志す者は少なくなってしまう。
警察志願の人間でさえ、敵引き取り係になってからは個人の武術が軽視されて剣道の存在意義が薄れている。
まぁ、長々と喋ったが結局何が言いたいのかというと……だ。
「高校進学に伴って引っ越すことにしました。小学校のころから今まで………お世話になりました」
「そうか……進学おめでとう。私の教え子が名門校を通ったと言われると、勉学を教えたわけでもないのに鼻が高くなるな」
冗談めかしてふふふと笑うダンディ師範、「剣終代」に、俺は今までの感謝と誠意、そしてほんの少しの謝意を込めて頭を下げた。師範の手には、俺が払う最後の月謝袋が握られている。
ここは俺の実家の近所にあった唯一の剣道場、「真志真道場」。元々警察官志願だった俺が近所で習い事をしようとして見つけた唯一の武道の道場だ。もしここで基礎体力や動体視力を身に着けていなかったら試験合格は確実に無理だった。
「これでこの道場の門下生は一人もいなくなってしまう。明日から寂しくなるね」
「………俺、公式戦出れなかったですからね。トロフィーの一つくらい取ってれば後輩も出来たんですかね?」
「さあ、どうでしょう。元々不人気でほとんど門下生が居なかったんだ。君が戦いで優勝したところで時間の問題だったんじゃないかと思うよ」
俺は、『個性』のせいで剣道の公式大会に出られなかった。つまり、この潰れかけの道場を再建するようなサクセスストーリーの主役にはなり切れなかったのだ。
俺の個性は表向き『超感覚』という集中力を高める『個性』だということになっている。そして現代の武道では『個性』を使うことが原則禁止されている。とりわけ俺のような発動タイミングが分かりづらい『個性』は勝負の公平性を大きく左右するため、公式試合の参加規程で弾かれてしまっている。炎を出す個性や別の器官を持つ『個性』ならともかく、発動の兆候を掴みづらい『個性』は使用を見逃したり判定に何度も持ち込まれる可能性があるためどうしても公平性を確保できない、というのが剣道協会だか何だかの主張だ。
師範はいつも俺に厳しくも暖かく剣道指導をしてくれた。恩師と言ってもいいし、何とか恩返しできないかと大会の実績以外にも周辺に慣れない勧誘もした。だがまぁ……駄目な時は駄目だった。あの日の夜に師範が奢ってくれた安価ブランドフルーツの「アキラメロン」は、とても甘いのになぜか塩味がした気がした。
……あまり長居は出来ない。引っ越しの準備もある。そろそろ帰ろうか――と、師範がまっすぐな瞳でこちらの名前を呼んだ。
「………水落石くん」
「はい、師範」
「君は
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