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恋姫†袁紹♂伝
閑話 ―乙女の受難―
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れば寝床を移す程度には虫が苦手だ。
 とはいえ、覇王の呼び名を持つ彼女が虫一匹にここまで機嫌を損ねることがあるだろうか、答えは否。
 
 怒りの対象は今進入した固体に対してでは無い。その数だ。

 屋敷の外は、まるで大雨にでも見舞われたかのような音が鳴り響いている。
 この雑音“全て”がバッタなのだ!







 蝗害(こうがい)である。

 袁紹がこの場に居れば『HI華琳! 飛蝗は虫の皇って書くんだぜHAHAHA』
 などと、小粋な知識で場を盛り上げようとしたかもしれない。
 最も、それをすれば華琳の逆鱗に触れ大変な事になるのだが……。

 蝗害による被害は、理知的な覇王の血管を浮かび上がらせるほどに凄惨を極めていた。
 まず目に付く問題が経済の停滞である。普段は人で溢れかえる城下町は現在無人。
 無理も無い、外は視界不良なまでにバッタがいるのだ。
 今は住人の殆どが家に篭り、この災害が過ぎるのを待っている。
 その為ほぼ全ての仕事が手に付かず、魏国の経済は停止していた。

 そして、経済の停滞よりも重い問題が食糧難である。
 餌が無ければバッタも異常発生はしない。この数は暴食を繰り返してきた証。
 傍迷惑な事に、バッタ達はここ魏国の作物を食い荒らしに来たのだ。

 しかし餓死者は出ていなかった。事態を重く見た華琳達は早々に軍を各地に派遣、可能な限り食料を輸入して住人に無償で配給したのだ。
 だがそれも限界が見えてきていた。住民を食べさせていくのは数日でも莫大な費用が掛かる。
 このままでは国庫が先に尽きるか、蝗害が止んだとしても軍を縮小せざる得ない。
 覇道を歩む国としては致命的だろう。




「華琳様、そろそろ昼食に致しましょう」

「……そうね」

 秋蘭の言葉で小腹がすいている事を感じ、昼時であると理解した華琳は筆を置いた。
 ややあって執務室に昼食が運ばれてくると、華琳は政務の時みたいに黙々と食べ始める。

「……」

 そんな主を秋蘭は尊敬の眼差しで見つめていた。
 
 華琳が今食べている食事は極めて質素なもの、蝗害が起きた次の日から彼女の指示で調理された精進料理だ。
 食材の種類、量共に少なく、香辛料や調味料の類も一切使用していない。
 美食家で知られるあの華琳が、贅沢の限りを尽くしても咎められない魏国の君主が、領民にのみ不自由な生活を強いてはならないとして、自ら倹約に努めている。

「……」

 今の大陸では、袁紹こそ理想の名君であるとした風潮が流れているが、秋蘭はそれを否定する。
 曹孟徳こそ、大陸を統べるに相応しい王だ!




「失礼致します」

「あら、何かあったの?」

 昼食を済ませ政務を再開
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