死者を食らう茸
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部屋の中央に、こんもりとした薄茶色い塊が盛り上がっている。
俺の、四畳半に。
図書館で借りて来た『菌類図鑑』の挿絵を何度も見返す。そして何度も『それ』の解説を読み返す。頭痛がしてくるが、何度も読み返す。
和名:屍鬼茸。別名:人食い茸
特徴:アンモニアを発するもの(死体、糞尿を含む)を好み、生えてくる。
………うぅむ。
ここ二階だし、俺がこの部屋に入った時点で畳は新品にしてもらっているしなぁ…。俺が居ないスキに入り込んだ変態が失禁して逃走…とか厭な想像が脳裏をよぎる。これは大家を呼んで話を聞くしか…。
「あー…分かりにくかったですねぇ」
ものっすごい背後からくぐもった声が聞こえて弾かれたようにその場を飛びのいた。うっわ何!?何なの!?誰がいるんだ!?
「あー…私、こういう者で」
きっちりしたツーブロックの背広を羽織った男が、名刺のようなものを差し出してきた。ろくに確認出来ずあとじさるしかない俺。
「あ、お気持ちは重々。ですがあの受け取ってはもらえませんかね」
すごい早口だ。それはともかく、俺はあの名刺を受け取れない。何故なら。
「――無理」
「……あー、」
「だってその名刺もあんたも」
―――半透明じゃん。
「なるほど、透けているものは受け取れないと」
「いやもう受け取れないんだよ、物理的に!分かるだろ!?」
だってこれ完全に幽霊じゃん!物質として存在しないものは受け取れないんだよ生身の人間は!!
「あー、はいはい、その問題点解決しましょう。ちょっとこう、名刺をスマホでパチリと」
「なるほどなるほど……………駄目だよ、映らねぇよ!!」
「あー…私はカメラに映るタイプの霊ではない、と。参考になりました」
奴はいそいそと半透明の名刺を半透明の背広の裏に仕舞い込んだ。『山田 孝』とか平凡ネームの白眉みたいなのが書いてあった。
「まぁ、ね。ちょっと唐突な感じになって『なにコイツ何しにきたの』って顔してますがね、何しにきたのかというと」
―――化けて、出たのですね。
「何で!?ここ事故物件!?」
「いやいやいや、正確に言うと事故物件はここではなく、この下でして…」
「じゃ下に出ろよ!!」
「下の住民は『視えない』タイプの方みたいでして。そうなるとこう、この恨めしさを何処に持っていけばよろしいのか、と。それでご迷惑は重々承知の上、こうして名刺を携えて伺ったわけで」
「そんな恨めしさに迷い出ずにはいられないような死に方したの!?」
「ぶっちゃけ過労死ですが」
「会社に出たら!?」
「えー…なんかねー、先客が沢山おりまして。なんか少ないパイを奪い合う?みたいなおかしな雰囲気でして。そもそも似たような人間達の集まりだから、出たところで誰も
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