巻ノ五十四 昔の誼その五
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「わかったな」
「では使者は」
「そうじゃな」
ここでだ、氏政は。
あらためて氏規を見てだ、彼に告げた。
「助五郎、御主が行け」
「それがしが、ですか」
「そうじゃ、それで御主からわしの考えを羽柴殿に伝えよ」
「従わぬと」
「東国は東国じゃ」
やはり胸を張って言うのだった。
「西国とは関係ない」
「さすれば」
「惣無事令なぞ知らぬ」
「そのこともですか」
「羽柴殿にお伝えせよ、そしてじゃ」
氏政はさらに言った。
「もう一つやることがある」
「まさか」
「沼田を取り戻すぞ」
上野にあるその場所をというのだ。
「真田家が居座っておるな」
「しかしそこのことは」
「まずはか」
「はい、折角それがしが上洛しますので」
「羽柴殿に話すというのじゃな」
「そして仕置をしてもらえれば」
「それでは同じじゃ」
氏政は氏規のその案も突っぱねた。
「それもな」
「そう言われますか」
「それでは結局あの惣無事令に従うということじゃな」
「それはそうですが」
「ならよい、真田家とは直接話をしてな」
そしてというのだ。
「返さぬのならな」
「その時にですか」
「兵を出す、わかったな」
「左様ですか」
「御主はわしの考えだけを伝えよ」
上洛して秀吉にというのだ。
「わかったな」
「さすれば」
「その様にせよ、よいな」
「わかりました」
止むを得ない顔と声でだ、氏規は氏政に応えた。そうするしかなかった。氏直もこれ以上は言えなかった。そしてだった。
氏規は止むを得なく彼が上洛することにした、それで小田原を発ち駿府に向かうが。
駿河に入るとだ、その国境にだった。
鳥居が兵達と共に待っていてだ、彼に挨拶をしてから言った。
「殿がお待ちです」
「徳川殿が」
「はい、まずは駿府においで下さい」
「そうして宜しいのですか」
「殿が是非です」
それこそというのだ。
「駿府に来て頂きたいとです」
「言われているのですか」
「はい、ですから」
「それでは」
「はい、お迎えに参りました」
こう氏規に言うのだった。
「案内致しますので」
「では」
氏規は断るのも失礼にあたると思いそれに幼い頃共にその駿府にいた家康と会いたくもなってだ、それでだった。
鳥居の申し出を受けることにした、こうしてだった。
氏規は彼の連れている者達と共に鳥居の案内を受けて駿府まで向かいその駿府に入った。そして城の中でだ。
家康の心からの歓待を受けた、家康は彼を親しく迎え宴も用意してくれていた。氏規はまずはその宴を楽しんだ。
しかしだ、家康に茶室に案内されそこで茶を飲んでいる時にだ、こう言ったのだった。
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