第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#9
DARK BLUE MOON 〜Sapphired Moment〜
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昨今微睡みの中でも滅多に見られないという
光景に花京院は一瞬呆然となる、が。
「怎麼了?」
すぐに穏やかな微笑を口元に浮かべ、
完璧な発音の広東語で目の前の美女に問いかけた。
「……!」
不快な低音の一切無い、透き通るような声。
青年の言葉に虚を突かれたのか美女は、一瞬その深紫の双眸を丸くする。
予期せぬ応対にマージョリーは一瞬言葉に詰まるが、
そこは長年の経験で培われた感情の転換で打ち消し
自分の言い分だけを端的に、「日本語」 で問う。
「私って、そんなに綺麗?」
堂々と真正面から青年を見据え、細い両腕を腰の位置で組み、
媚びを売るでも科を造るでもなく、それこそただ道を訪ねるよう、自然に。
「……」
今度は青年の方が虚を突かれたようにその琥珀色の双眸を開くがこれもすぐに、
「えぇ、そう想いますよ。女優のA ・ヘップバーンに似てると言われませんか?」
と吹き抜ける海風よりも爽やかな笑顔でそう答える。
多少なりとも映画に造詣の在る者なら、
コレは女性の美に対する最大級の讃辞の一つなのだが
無論そんな習慣のない美女は、
「誰? ソレ?」
と、やや不機嫌そうに答える。
「失礼。妙なコトを言ってしまいましたね」
学生服の青年は無垢な笑顔のまま、軽く会釈をして非礼を詫びる。
「……」
その態度が、何故か微妙にマージョリーの心中をザワめかせた。
(……何で謝るのよ。私を認めるのに失礼な事なんか何もないでしょ。
本当に日本人ってのはワケが解らないわ)
瞳を少しだけつり上げた不機嫌な表情のまま、
自分の無礼さは棚にあげて美女は心中でそう零した。
「日本語、お上手ですね。見たところヨーロッパの方のようですが?」
旅行中の外国人とでも想われたのだろうか?
目の前の青年、成熟しきった大人の女である
マージョリーからしてみれば “少年”と呼んでも差し支えない人物は、
再び穏やかな口調で自分に問う。
「達意のげ、ンン、独学よ。使える言語が増えて困る事は何もないでしょ?」
「フフッ、確かにそうですね。言葉を理解すると、
その国のコトも良く解るような気になりますしね」
「そ、そうよ。言葉が通じなきゃ討、仕事も面白くならないわ」
“達意の言”
紅世の徒やフレイムヘイズが、自分と違う言語を使う相手との会話に使う、
翻訳のための変幻系自在法。
生来裏表の無い性格なので想わず 「本音」 が出そうになるが、
それは尚早だと承知しているマージョリーは適切に誤魔化す。
どうも、この青年と向かい合っていると、
彼の存在が醸し出す穏やかな雰囲気にあてられて
妙なペースに引き込まれるようだ。
ついつい言わなくていいことまで嘴 ってしまいそうに
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